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恐怖の報酬のナーオーのレビュー・感想・評価

恐怖の報酬(2024年製作の映画)
1.0
本作の良さは、
"クルーゾー版とフリードキン版の偉大さを再確認できる" ということ…

1953年のアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督作『恐怖の報酬』、そして1977年にウィリアム・フリードキン監督によってリメイクされた『恐怖の報酬』

クルーゾー版は言わずもがな名作だけど個人的にフリードキン版『恐怖の報酬』の方が好き。鳥肌が立つほどの迫力と緊張感。故ウィリアム・フリードキン監督の狂気に溢れた名作であり、彼の最高傑作だと思っています。

あのリメイクの後、初代と同じくフランスで新たにリメイクされるというニュースを聞いた時は、まぁ 上手くいかない と予想していたし、その予想は正しかった…

クルーゾー版とフリードキン版を超えることはできず、今回のリメイクは色んな意味で物足りない残念な仕上がり…

ただ今回監督を務めたジュリアン・ルクレルク。この人選は決して悪くはないと思います。ルクレルク監督の過去作、例えばフランスで実際に起きたハイジャック事件を描いた『フランス特殊部隊GIGN ~エールフランス8969便ハイジャック事件~』は本物のGIGN隊員たちが製作に協力しているだけあって、非常にリアル。エンタメ性は薄いけど、ドキュメンタリータッチな作風も忘れ難い。

他にも武装強盗団を描いたクライム映画『ザ・クルー』や個人的にはジャン=クロード・ヴァン・ダムがアクションを封印して哀愁漂う渋い演技で勝負した傑作『ザ・バウンサー』などフランスのクライムアクションやノワールを得意にしている監督。

本作も前半部分はこの作風を活かしたフレンチノワールな『恐怖の報酬』として良かったです。そしてアクションの腕前も悪くはない。タクティカル重視のリアルな銃撃戦も見応えはありました。

ただ、この映画に激しい銃撃戦というアクションが必要か と言われると… 絶対に要らない… 銃撃戦が始まると、ほんの少しの衝撃で爆発するニトロはほったらかしになる始末…

このように『恐怖の報酬』の肝とも言える"揺らしてはいけない" というシチュエーションがあまり生かされていない… これは『恐怖の報酬』としては失格。

嵐の中、今にでも崩れそうなボロボロの吊り橋を巨大なトラックで渡る という観ているだけでも冷や汗が出るフリードキン版圧巻の名シーン。あれを超える場面がなかったもの残念。しかも本作では吊り橋ではなく、しょぼい水溜まり… という……
全くもって画面映えしない…

今回のリメイク版では"地雷原"という新たなシチュエーションが追加されており、そこにスナイパーが!という面白くなりそうな展開も案外あっさりと…

"一難去ってまた一難"という展開がもっと観たかった…
ここまで退屈でハラハラドキドキしない『恐怖の報酬』はある意味凄いと思います。

あと個人的に気になったところ…
細かいけど、本作の舞台は灼熱の砂漠。
なのに登場人物誰一人暑そうに見えない…
ターミネーターでも汗はかくのに、本作の登場人物は汗すらかかない…

クルーゾー版、フリードキン版の登場人物は油や汗、泥だらけになっていく…
そういう細かいところがないだけで、一気にチープに見えてしまう…

ジュリアン・ルクレルク監督には悪いけど、これは完全な失敗作…

これを観るくらいならクルーゾー版とフリードキン版がオススメです…
なんならジョナサン・ヘンズリー監督による『恐怖の報酬』リスペクトだけで作られた『アイスロード』がオススメ…
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