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ハントのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ハント(2022年製作の映画)
3.8
 1980年代初頭。韓国国家安全企画部(旧KCIA)の海外次長パク(イ・ジョンジェ)と国内次長キム(チョン・ウソン)は、焦っていた。それは全斗煥(チョン・ドゥ・ファン)政権打倒を目指す韓国系移民たちのデモが大都市の各地で繰り広げられていることだ。ワシントンDCでもデモの鎮静化を図りたい国内次長キムはテロリストの動きを察知し、すんでのところで事なきを得る。国内の民主化を求める若者たちの集団の革命的な動きは激しさを増し、KCIAは大学生のチョ・ユジョンを検挙するが、彼女の父親がパク次長の元上司と言うことで海外チームが取り持ち、釈放される。とにかく矢継ぎ早なカッティングとあまりにも入り組み過ぎる人物の相関図が率直に言って大変わかりづらい。KCIAの海外チームと国内チームの構成も顔触れを把握するまでにとにかく苦労した。然しながら東京支部のヤン・ボソンの死から突如、窮地に陥るパク次長率いる海外チームのアクションの機微は流転に舵を切ることで、突如動き始める。80年代の東京の街並みの再現は文字情報が幾ら何でもいい加減過ぎて萎えるが、アクションの動線は悪くない。機密情報が漏れたことから、組織内に入り込んだ“北”のスパイを見つけるよう命じられる。昔から因縁の深い2人にとっては二重スパイを探し出さなければ自分たちが疑われるという緊迫した疑心暗鬼のような状況で、大統領暗殺計画があることがわかり、トンニム417特殊作戦の深い闇へと引っ張られて行く。

 NETFLIXドラマ『イカゲーム』の主人公として知られるイ・ジョンジェの初監督作で主演も担当しているが、決して『イカゲーム』の大ヒットにより撮られた作品ではない。4年ほど前からイ・ジョンジェは初監督作として今作の脚本を粘り強く練りながら、今作を映画化する機会を探っていたのだ。二重スパイを探し出す過程は真にサスペンスフルだが、イ・ジョンジェの意図は決して答え合わせには終わらない。もちろん背景には光州事件の憂鬱もあるのだろうが、それよりも「アウンサン廟爆破事件」の方が史実的には近いかもしれない。1983年、ビルマ(ミャンマー)に潜入した北朝鮮の武装ゲリラ3人が、同国を親善訪問中の全斗煥(チョン・ドゥファン)韓国大統領らの暗殺を企て、訪問先であるアウンサン廟において爆弾テロを引き起こし、韓国外務部長官ら21人が死亡し、負傷者は40人を超えた韓国国内では有名な陰惨な事件である。互いを鏡に見定めるイ・ジョンジェとチョン・ウソンのじりじりとした緊迫感溢れる切り返しがいかにも韓国らしい。男たちのレイヤーはやがて国の大義と正義とに真っ二つに引き裂かれて行く。元は志を同じくしながらも、北緯38度線で引き裂かれた男たちのそれぞれの立場と譲れない相容れない思いとが悲しいほど積みあがる。然しながら2人の苦み走った作劇すらも木っ端微塵に打ち砕くような、焦燥する若者の姿が印象的だ。
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