みゆう

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのみゆうのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

下書き溜まりまくってるから、公開中のこちらから。とりあえず、暫定今年イチの映画だった。

ミラマックス社のハーヴェイ・ワインスタインが何十年にも渡って行ってきたセクハラ・性犯罪の告発記事が世に出るまでの実話を元にしたストーリー。記事を担当した2人の記者を中心に、丁寧な取材を重ねながら情報提供者に寄り添い記事を作り上げていく様が描かれる。

実際の記事が与えた影響は、ハーヴェイが逮捕された今もうご存知のとおり。リアルでは、新聞記事が出て彼が行ったことが明るみに出て逮捕されたっていう流れしか知ることはないけど、その裏側にはこんだけ様々な人たちの熱意というか生の気持ちというか人の感情が動いているということを実感させられる。

取材の様子がメインだから、激しいシーンとか画で見せるというシーンはないけど、こういう静かにアツいのめっちゃ好き。映像で見せんるんじゃなくて、役者の演技というか、セリフと行動で人の心情を表して伝えるのは、めっちゃ心動かされる。観ながら3回くらい泣きそうになった。またハンカチ忘れたから我慢した。

1番良かったのは、アジア系の友達と一緒にミラマックス社に勤めてた女性に取材した時のシーン。過去何回か記事にしてもらったけど、その度に注目されず話した真実が他の情報に埋もれて話題にされず、悔しい思いをしながらも、担当したジョディを信じて話してくれて、ミラマックスと交わした理不尽な契約書を資料として渡しくれたとこ。セクハラ・性暴力とかは、本人にとっては本当に怖いし、トラウマものの経験になるけど、実際に当事者にならないとその怖さを本当の意味で共感できない部分があるし、他人が、ましてや加害者の立場になりやすい男性とかだと、共感されづらいところもまだまだあるから、軽く扱われたりしがち。協力してくれた女性も、過去に何も変わらなかったこともあって、そういうことを分かって半分諦めの境地でいながら、それでも変えて欲しいってジョディに契約書を託したのは、本当に大きいことだったと思う。そこの本気さが伝わる良いシーンだった。

あと、この映画は仕事映画として見ても良い映画だと思った。仕事自体はプライベートの時間もほとんど無いような、仕事が生活の一部になってる激務だけど、それでも続けたくなるような周りのサポートの様子が完璧だった。上司は部下の自主性を重んじながらもフォローしてくれて、思いやりを持って接してるし、2人の夫も理解してくくれてる。女性の自立・社会での男性と同等の立場というのを、テーマがテーマだけにというのもあるだろうけど、体現している演出だった。実際のNYポストの社内状況がどうかは分からないけど、今の社会が持っている女性を取り巻く社会問題を考えさせられる構図になってるところも見事だった。オフィスのシーンとかは、「今は差別とかダメだから、直属の上司役は女性にして、男性はその下に置く役にしよう」とか、最近の映画は特に、現代社会の風潮に対して制作側の意図とか忖度みたいなのを感じることも増えてきたように思うけど、今回のは、本当に性別関係なく、能力でこの人はこのこういう役職についてるんだって、そういうのを感じさせてくれる配役だったなとも思う。本当の意味での男女というか人間平等に描かれていたのも好感が持てる。

ミーガンとジョディの仕事に対する姿勢も、良かった。新聞は公正中立の立場でなくては行けないから、どちらかの立場で書くことができないながらも、女性たちの気持ちに寄り添う取材の仕方とかが良い。マスコミは嫌われがちだけど、裏どりのために無理な取材はしてないし、あくまでも女性たちの意思優先のやり方だから、協力してくれたんだろうし。大変だし、時間もかかるけど、この問題に真摯に向き合ってきたからこそ、実際の記事も多くの人の心を動かしてあれだけ大きな運動になったんだろうなと思う。ペンは剣より強しっていうのを体現してるような感じ。

記事に込めた作り手側の思いがすごく感じられて心動かされる映画だった。

あと、ラストも秀逸。記事が出てからの世間の反響とかそういうのは一切なくて、記事を投稿するボタンのクリックで終わるの。でも、記事がもたらす世間への影響・反響とか関わった人たちへの人生を変えるかもしれないというプレッシャーとか、みんなで固唾を飲んで記事の公開ボタンを押すところを見てるけど、そのワンクリックがどれだけ思いことなのかっていうのがただボタンを押すだけなのに、そういった重みがすごく伝わってきた。そのクリック一つにかかってる重みが、映画の序盤からそれまでの全部もかかってるし、その全てを表してた。だから、観た後の余韻がものすごかった。
みゆう

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