Hideko

マグネティック・ビートのHidekoのレビュー・感想・評価

マグネティック・ビート(2021年製作の映画)
3.8
原題: Les magnétiques
英題: Magnetic Beats

2023年 MyFFF出品作品。

見どころ
ヴァンサン・マエル・カルドナ監督の長編デビュー作。政治に幻滅した若者がロック音楽に夢中になっていく、この時代特有の複雑な状況を大胆な演出の中に描き出す。

ストーリー
‘80年代初頭、ブルターニュ地方の小さな田舎町。兄のジェロームと弟のフィリップは、父親のガレージからラジオの海賊版放送を行っていた。独特のカリスマ性を持つジェロームはDJ、フィリップは技術面を担当していたが、フィリップに徴兵令が下り…。
(U-NEXTより)

弟のフィリップが兄のガールフレンド、マリアンヌに一目惚れするシーン、上手いなと思いました。全裸の彼女が、隠れて服を着ていると思っている一部始終。反射した鏡のような物でフィリップは全部見ていたのでした。そのカメラワークが自分には舐めるように見えてしまって直接的でないエロティックさが印象的でしたね。

ミッテラン大統領が当選し、しかし、自分はジスカール派だというくだりや、徴兵が下ってベルリンに行くことになるという設定も当時の世相を反映しておりストーリーに深みを与えていたと思います。

徴兵前に美容室でマリアンヌに髪を整えてもらうシーン。パトリス・ルコントの『髪結いの亭主』の象徴的なワンシーンを思い出しました。監督へのオマージュでしょうか…。

残念なのは自分には、登場人物たちが語る音楽、アーティスト名も曲名も知らないばかりか聴いてみても全く未知の世界であったということです。その辺りが分かった人は本作をより楽しめたのでないでしょうか。

そしてフィリップのDJぶりです。あのようなテクニックは当時ならではのものなのか、今はテープの時代ではないけれどもレコードは使うし…自分はDJが慣れた手つきでクールな音を作っていくのを生で幾度となく見たことがあり、最高にセクシーだと思っているので、フィリップのそれも驚きを持って感激して観ることが出来ました。

悲しい要素も含まれる本作ですが、フィリップの成長物語が様々な要素を織り交ぜながら語られている秀作。
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