イモリん

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいのイモリんのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

感動しなかったし、共感できない部分も多々あったけど、観終えたあとすごく名残惜しい気持ちになった。
なんだかすごく安心できる映画やった。
楽になれる、というか。

他の映画と決定的に違う部分。
それは、性別に対する役割期待からの解放である。
ジェンダーについての議論が増えてるのは、裏を返せばジェンダーを強く意識させられる毎日を送っているからだと思う。
だから「私は〜です」など自分を何かのタイプに当てはめてそれを主張しないといけなくなってる感じがする。
それって、結局「〜」に縛られてるんじゃないの、とか思ったり。

私も主人公同様、男として期待されることが怖い。
いや、世の中の男性多くが本当はそう思ってる気がする。
けれどもステータスのためには、男性として期待される役割をこなそうとする。
だから人間としてよりも男性として魅力的であろうとするし、映画で登場するヤナ達のように、そうでない人を見下して笑う。
世の恋愛作品は、知らず知らず男はこうあるべき、という道を示してくる。
それを観て抱くのは憧れか、はたまた己への失望か。
女性も同じでしょう。

白城が言ってた「優しすぎる」という言葉、その通りだと思う。
七森も麦戸も、このまま社会人になって、結婚とか意識し始めて、変わらないといけないタイミングが出てくる。
繊細すぎる人は、人一倍強くならないとやっていけない。「優しさから解放」しないと。
白城は賢いと思う。
それでも私は、七森の優しさが好きだな。
あまりにも純粋すぎるし、泥々の自分には理解できない部分もあるけど、そこも含めて。

ありのままってなんやろ?
ありのままでいいってみんな言う。
ほんまはこう続くんやろ。
但し、みんな仲良くしましょう。TPOわきまえしょう。でも他の人と差をつけましょう。いい点数とりましょう。先輩の言うことは聞きましょう。上司に気に入られて出世しましょう。落ちぶれた人にならないようにしましょう。異性に気に入られて結婚しましょう。悪口や下ネタも適度に楽しみましょう。
そのうえで、ありのままでいましょう!
…いれるかアホ!(誰宛て〜)

白城は七森に言った。「正義感、しんどい」
わかる、強すぎる正義感はむしろエゴだ。
でもさ、今の社会って、正義感を気取らないことが正義みたいになってない?とか思ったりする。
村八分じゃないけど、社会の内側でうまく生きていくことが正しさになっとらんかい。

この映画は、多くの人が潜在的に抱えている気持ちにそっと寄り添ってくれる。
張り詰めたものが溶けて楽になると思う。
なんならぬいぐるみに話してみたくなる。
でもほんとは、人と人が本音を話せる方がいいんよね。
最後のセリフの意図はそう受け取った。

そしてもう1つ。
「落ち込んだときに、落ち込んだままいていい場所が必要」
この言葉もなんか、大切に覚えておきたいな。
人生は修行であるなら、ある程度しんどくて当然。
でも、だとしても、これだけ多くの人たちが自ら命を絶つのはやっぱり、なにもかも個人の問題とは言い難い。
自助努力の必要性を否定しないが、抱えられる孤独には限度がある。

ちなみに映画観たあとすぐに小説を買って読んだ。
すぐ読めるし、こっちもよかったと思う。
イモリん

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