シミステツ

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

恋愛の好きという気持ちがよくわからない七森が麦戸や大学の「ぬいぐるみサークル」の仲間と心を通わせていく物語。

ぬいぐるみに話をしたり、話を聞いたり。みな個人的な悩み事や傷を吐露していく。ぬいぐるみとの向き合い方においては白城さんが比較的フラットな存在として機能していて鑑賞者側に寄り添ってくれる。サークルの掛け持ちをしていて、酷いことが起こるのが普通な世の中で安心できるところだけにいたら打たれ弱くなるからという白城の考えはとてもわかる。

全体に流れるテーマとしては「痛み」。それぞれの痛みがある。自分を理解すること、相手を理解すること。わかりあわなくていいこと。サークル内でぬいぐるみに吐露する会話を聞いてはいけないという会則がとても効いている。誰かのためになりたい、知りたいという中にも断絶はある。勝手に心の声を聞いて寄り添おうとすること自体もエゴだったり。

そして七森から浮かんでくる男らしさや女らしさとは何かという問い。お笑い番組の観覧席は若い女の人、とか世の中に対する目線もしっかりあるのは好感持てる。恋愛はしない人もいる。好きという気持ちが生まれないこと、まわりと違うことで悩む必要はない。七森が白城に告白したのも、なぜだ、恋ってよくわからない人だったはずじゃ、と思う部分はあったが、七森は自分のことをわかるために付き合ってみたというのは彼自身の葛藤や新しい環境の中でまわりと慣れ親しんでいくために必要な経験だったのではないかと思う。

前半は少し退屈な部分もあったが、テーマ感はすごくよくわかったし、後半にいくほどに登場人物の痛みがより露わになってきて、しんどくもあり共感できる部分もあった。やさしさと無関心は似ているというメッセージは刺さった。やさしさ自体は痛々しかったり怖かったりすることもあるんだという、心の奥底で思っていた感情が掘り起こされたような感覚があった。麦戸の言う、聞いてくれる人をしんどくさせちゃうからぬいぐるみに話そうっていう気持ちもやさしさでできている。世の中の差別や偏見、ハラスメントを常識の範囲内で苛立ちを示すことと自分ごとに感じて痛みを共有するのか、このニュアンスも絶対にあるよなあと。ぬいぐるみは話しかけてくれる存在でもあるんだ。

チーズおかきのくだりよかった。