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美と殺戮のすべてのryoのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
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美しい自己発見と周囲からの消えない烙印。そして自己否定。

姉に見えていたであろう、
そして見えすぎてしまった美しく自由で、調和した世界。
ただし、現実の世界は余りに美しいものを引き摺りおろす。
自らへの後悔や自分には決して出来ないという絶望を消し去る為、
余りにも美しく生きる人を差別、排除すべく異常者の烙印を押す。


そして、写真のパワー。
写真を撮られたその瞬間、その人はただただそこに存在していたという事や、その時空間そのものが、解釈の余地なくただただ焼きついた写真の数々。
そしてそれを通じて語られる自分の、そして家族の物語。
この組み合わせのパワーがとてつもなく響く。


この世界への反発、
そして自分の美しさの肯定、つまりは姉の美しさの肯定をする為に、ナンゴールドウィンは戦うのだと思う。

これは、よくある社会の悪を切るただの社会派映画ではないと感じた。
自分の問題としてドラッグを捉えるナン。
ただし自分の問題として閉じて考え、そして世界からの烙印に埋もれ、自己否定に走る事を回避する為、
ドラッグを使用、中毒になる人たちを差別する烙印を押そうとする世界に対して抵抗しているようにみえた。
これは、自己発見と世界の烙印とのギャップによる苦しみからの戦いの記録、
そして姉の人生の肯定の為の戦いの記録なのだと思う。

どうしても具体的な事実が際立ってしまうドキュメンタリーという手法にも関わらず、
生きるという事に対して、ここまで抽象的でどっちつかずの曖昧さを持って迫る事ができるのは、映画の力、写真の力、そして物語の力だと思う。
鑑賞後に段々とこの映画の凄みが自分の中で強まっているように感じる。
本当に素晴らしい映画だった。
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