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Hereのryoのレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
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日々を生きていく上で、
本来個人個人が対処できる範囲は、
自分が思っているより狭く、
その一方で豊かさを感じる思考や感覚は、
自分が思っているよりとても浅い、シンプルなものなのだと感じた。

ただし、出身地、話す言葉、価値観、世代、様々な人が周りに溢れる中、
現代の日常を背景に、そのシンプルさを貫き通す事、違和感なく表現する事は、
とても難しいものに思える。

ただこの映画に関しては、
日常から離れようとするバカンス前という絶妙な設定からスタートする。
工事音が鳴り止み、機械が動きを止める。
(日本も1ヶ月ぐらい世の中全部ストップさせればいいのにと思った)
まだ日常に居ながら、複雑な日常からの離脱に向け、日常を俯瞰する事のできる時間。

その日常を俯瞰する行為として、冷蔵庫の中を空にするという多くの人が経験した事のあるあの行為。
また、逆に自分にとってはなかなかハードル高いと感じてしまう手料理を誰かに配るという行為。
自分に処理出来ない範囲を誰かに渡す事、これをリアルな繋がりで行う事。
手作りスープを渡すことの出来る繋がりを小さく築くことは、世界の豊かさを築くことそのものだと思った。

また、名付ける事についてシュシュが語る。
名付ける事は、区別する事、境界線を引く
事。その一方で名付ける事をしなければ自分の中に永遠に存在しないだろうものもある。それが例えば苔であり、何か日常では切り捨てられてしまうものなのだと思う。
そんなモノの存在との繋がりを、シュシュのように手探りで見つけていく事、これも世界の豊かさそのものだと思う。


様々な残り物を全て混ぜて、煮込むと美味しくなるスープ。
草むらでそれを皆で食べる様子。
拡大してみないと分からない苔の瑞々しさ。
その小さな美しさを一緒に感じる事。
靴紐を結び直しているシュシュにゆっくりとかけより、手を差し出す事。

こんな物凄く些細な事だけど、
これだけ凝縮された状態で見せて貰えると、思考とか難しい事は一切関係なく、
シンプルで波立たない美しい世界の存在をこんなにも単純に感じる事が出来るのだなと思う。
そして、映画としてもその様子がちゃんと物語になっていく事にも驚く。
ショットは勿論、サウンド、デザイン、全てが素晴らしかった。

今のところ、自分の今年のベストになりそう。
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