叡福寺清子

ボーンズ アンド オールの叡福寺清子のネタバレレビュー・内容・結末

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

♪生きてるかぎりは どこまでも
探しつづける 恋ねぐら
傷つきよごれた わたしでも

骨まで 骨まで
骨まで愛してほしいのよ♪

♪なんにもいらない 欲しくない
あなたがあれば しあわせよ
わたしの願いは ただひとつ

骨まで 骨まで
骨まで愛してほしいのよ♪

ご年配の方は歌えますでしょうが,川内和子さん作詞の『骨まで愛して』の1番と3番の歌詞でございます.本作の原作者カミール・デアンジェリス氏が,この曲を知ってたかどうかは存じません(知らねぇよ!)が,本作自体はだいたいこういう内容でした.

カニバリズム衝動を抑えられない少女.庇いきれなくなった父親は少女の元を去りました.出生証明書だけを置いて.そして少女は母親を訪ねるために旅に出ます.先々で自分と同類な人々と出会い,そして一人の少年と恋愛関係になりますが・・・

少女を含めたイーターの多くが家族とは疎遠,または死別し,孤独な生活を余儀なくされます.食人特性が遺伝的特性であるにも関わらず.まるで異物は簡単に排除されてしまう現代社会を象徴するかのように.

作中,度々犠牲者の過去の写真が登場します.写真とは過去のある瞬間を捉え現在につなぎとめるもの.犠牲者はただの肉の塊ではなく,それまでの人生を生きてきた存在.そしてイーターとは,その過去までも含めて喰らう存在であると同時に,自身は過去を捨てて生きていかざるを得ない存在でした.いっその事,本物のゾンビのようにカニバリズム・マシーンとして生きていったほうが楽だったでしょうに.

イーターといえば,グロンギ族のように一人ひとりの個性が大変奇抜.少女のように一般社会に溶け込んだ姿のほうが稀でございました.特にみんな大好きサリー老.この方のインパクトは強烈で,シャラメ君よりも記憶に残った次第.好々爺とピチの字の絶妙なミックスにイーター属性のトッピング.素晴らしかったです.終盤で,マレンに馬乗りになった際に自然とこぼれ落ちた涎.あれはヤバいでしょ.
ヤバいといえば,健常者なのにイーターと行動を共にするジェイクさんは作中一番のピチの字だったと思われ.服装も一番普通だし,でも桃井タロウの言う通り,普通が一番怖いんですよね.