シャチ状球体

ゴッズ・クリーチャーのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

ゴッズ・クリーチャー(2022年製作の映画)
2.3
今日も今日とて"A24の知られざる映画たち"で上映された映画を視聴。

マークという青年の死を追うかのように田舎の漁村に突然帰ってくるブライアン……という導入の時点で何か訳ありな予感しかしない。

ブライアンが家族の元へ現れたことについて、家族が抱え込まなければいけない理由が希薄でリアリティに欠ける。
家父長制の色濃く残る漁村において、家族の誰かの汚名が非常に大きな社会的スティグマとなるのはもちろん分かるけど、同じ屋根の下で一緒に暮らしているのにも関わらず肝心のブライアンの視点がないので、アイリーンの苦悩ばかりを見せられてもストーリーとしての説得力が乏しい。

男性社会のホモソーシャルな関係の中で性暴力が軽んじられ、ブライアンもそれに影響されて自分の行いに向き合わなくなっていく展開なのだから、母親であるアイリーンじゃなくて当事者のブライアンが主人公じゃなければいけないと思う。
母が子を庇おうとするような映画で言えば『ベン・イズ・バック』を思い出すけど、そちらはベンが麻薬中毒で周囲の支援がなければ死へと一直線な状況なので母親が手助けをすることに違和感がなかった。対してこの映画はブライアン自身は特に何も抱えておらず、それなのに彼が何を考えているのかが説明されないので無駄に遠回りをさせられているような感覚にに陥ってしまう。

加害者が常に不在でドラマが進んでいくのは正直意味があるとは思えず、ブライアンが突然変異したモンスターのように扱われているのも色々な解像度が低い。
性暴力を扱う映画を製作するにあたって、この脚本でOKが出たことがまず問題。別に何も解決してないのに爽やかなエンディングなのは、結局保守的な村や町から出れば空気をリフレッシュできるってこと?そんな単純なことでは決してないし、加害者=クリーチャー(怪物)という図式はまるで被害者の運が悪かったと言わんばかりの短絡的な結論で、何のために映画化したのかさっぱり分からない。

これは今回の企画で日本語化された作品の中では文句なしのワーストかな……。
一応残り4本も少しずつ観ていきます。
シャチ状球体

シャチ状球体