シュローダー

少女は卒業しないのシュローダーのネタバレレビュー・内容・結末

少女は卒業しない(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

Fan's voiceオンライン試写にて。監督があの地獄の大傑作「カランコエの花」の中川駿なので「普通のキラキラ青春映画の訳はないだろう」と思ってはいたが、やはり鑑賞後の後味が先日観た「イニシェリン島の精霊」と殆ど変わらないかなり突き放した結論を出すものだったので「この映画みたいな青春を送ってみたかった」みたいな感想を見かけてギョッとしている。観終わったあと予告編をもう一度観てみたが、「さっきまで観てた物と違いすぎる…」となってしまう"エモい"予告編だった。まあ確かに宣伝し辛い物語ではあるが、ここまで違うと問題があるんじゃないかと思ってはしまう。それはそれとして、個人的には凄く好きな映画だった。冒頭10分足らずの時点で訳アリらしい少女たちのキャラクターを説明的なセリフもないまま完璧に説明する手際の良さを発揮したかと思えば、異常に引いた目線で捉えられて決して熱を帯びない語り口で卒業式という逃れられない終着点へ突き進み、少女たちは学校という"世界そのもの"にして"戦場"とも呼べる空間の中で、それぞれの青春に折り合いをつけるべく向き合っていく。この時点で、普通のグランドホテル形式の映画として卒業式が全部のオチになるんだろうなとぼんやり思っていたのだが、ちょうど映画が始まって1時間くらい経った所で河合優美演じる山城が背負う衝撃的な過去…彼氏が自殺していてここまで映っていた彼氏は全部妄想だった…という事が明かされる。そしてそのまま卒業式は終わってしまい、クライマックスは全て卒業式後に行われる。この大胆な構成には惚れ惚れした。そして問題のクライマックス。「出兵した息子を送り出す歌」であるダニーボーイが流れ、4人の少女がそれぞれの青春に決着をつけ、その結果として誰一人として望んだ幸せな結末を手に入れる事は叶わない。青春という「可能性が開かれた状態」を相対化、批評し、「青春とはどう足掻いても絶たれてしまうが故に永遠の思い出になる」という結論を出した瞬間に恐ろしい切れ味を持ったまま映画は終わってしまう。これぞ「カランコエの花」イズム溢れる中川駿の作家性なのだろうし、あくまでも少女当人たちの内面のみを描いて矢印の先の相手の感情はほぼ描かれないという潔さが通底されているからこそ、誠実な結論だと納得出来た。また、それを後押しする要素として、役者陣の本物の高校生にしか思えない実在感を持った演技にも触れなければならない。名バイプレイヤー河合優美は殆ど喋らずに全てを推し量らせる演技をしていて流石だなと思ったが、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望ら残りの人たちも表情1発で胸を締め付けられる恐ろしく切ない演技を引き出していて、この顔をきっちり撮る為に敢えて群像劇と見せかけて登場人物がほぼ交差しない脚本や撮影などで小細工をしてないのだなと納得した。もう高校を卒業して3年くらいは経とうとしている自分の様な人間でも「元バレー部で軽音部入った女の子、同級生に居たなぁ」みたいな事を思い出して色々と死にたくなったので、現役の高校生が観てどう思うか感想を知りたいなと思った。