シュローダー

不死身ラヴァーズのシュローダーのレビュー・感想・評価

不死身ラヴァーズ(2024年製作の映画)
4.3
ともすれば非常に漫画的で非現実的な物語として大失敗してしまいそうなものを、この映画は限りなく純粋に、限りなく本気で映画にしている。それが可能になっているのは何よりも主演2人の間に起きたかけがえのないマジック。出会うたびに年も経歴も違う男に対して、まっすぐな眼差しで「好き!」と叫び続ける狂人と紙一重の主人公、長谷部りのを演じ切る三上愛の暴力的なあざとさと危うさが死ぬほど可愛いし、相手役の佐藤寛太も、出てくるたびに人柄が全く変わるのに違和感がない見事な演技力と純真さを讃えている。原作から主人公と相手役の性別を逆転させたのも、役者の力を活かすためには必然だったのだろうと思わされる。それを最も体感させるのはこの映画全体のハイライトである、三上愛がアコギ一本でGO!GO!7188の「C7」を駅のホームの階段で熱唱する場面。この場面は本当に素晴らしい。歌詞がピッタリなのは勿論だが、本当に三上愛がギターを一心不乱に掻き鳴らして歌っているという身体性の切実さも混みで、思わず涙が浮かんでしまう。だが、この映画は後半に進むにつれ、「アメリ」や「ロストハイウェイ」を連想するかのようなどんでん返し的な展開によって、決して100%の正しさを押し付ける映画ではないことがわかってくる。それは、ある種信仰にも似た「恋」という他者への眼差しへの折り合いの付け方であり、人が一瞬の生の中で体験する恋の数々は、たとえ「運命の恋」ではなかったものだとしても、どれもが無駄になる事は無いのだという普遍的事実を、文字通り、人が人を正面から見据える姿のように語って見せる。やはりこの映画も「恋愛をする映画ではなく、恋愛とは何かを考える映画」という、優れた恋愛映画の条件を満たしている。その真摯な姿勢に完敗を喫した。ラスト周りの締まらなさなど、映画としてぶきっちょな部分はあるが、この座組でしか作りえない愛おしい作品にきちんとなっていた。それだけでも評価に値する秀作だった。