こなつ

少女は卒業しないのこなつのレビュー・感想・評価

少女は卒業しない(2023年製作の映画)
4.0
2012年連作短編集として出された直木賞作家・朝井りょうの作品が原作。監督は中川駿。
この小説は未読だが、10代、20代の深層心理をリアルティのある描写で綴る朝井りょうの作品は結構好きで読んできた。

「少女は卒業しない」というタイトルが朝井りょうと結びつかなかったので最初は気が付かなかったが、これが朝井りょうの原作と知って劇場で鑑賞。若い人で溢れているかと思ったら、中高年以上がかなり多くて驚いた。とても素敵な作品だった。

朝井りょうの小説は、なぜか青春時代の甘酸っぱさや苦さみたいなものを、懐かしい思い出とともに蘇らせてくれる、そんな力があるように思う。

校舎の取り壊しが決まっている地方の高校の卒業式の前日と当日の2日間、その高校に通う4人の少女の物語。4人は同じ高校というだけで共通点がない。クラスも部活も違い、それぞれに親友や恋人、想いを寄せる人がいる。

山城まなみ役の河合優実しか知らなかったが、4人とも等身大の高校生を瑞々しく、とても自然に演じていて良かった。

まなみ(河合優実)の恋人役、窪塚愛流は、横顔がお父さんの窪塚洋介にそっくりで驚く。「ケイコ目を澄ませて」「あつい胸騒ぎ」での存在感ある演技ですっかり魅了させられた佐藤緋美が、4人の少女の一人神田杏子(小宮山莉緒)の中学からの同級生で軽音楽部の森崎剛士を演じている。その佐藤緋美が、アカペラで「ダニー・ボーイ」を熱唱したのだが、またそれが上手い。ミュージシャンのCHARAの息子だけあって、圧巻のパフォーマンスで作品を引っ張る。

卒業するということは、友達や恋人との別れを意味する。これから先の新しい出会いや経験に心躍らす反面、いつまでも高校生でいたいという思い、この作品は、そんな大人と子供の間にいる若者たちの心理をリアリティある人物描写で綴っている珠玉の青春映画だった。
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