こなつ

パリタクシーのこなつのレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
4.2
素敵な映画だった。心がほっこり温かくなり、幸せな気持ちになった作品。

見るからに無愛想、イライラしていて怒りっぽい46歳のタクシー運転手シャルルが、ある日偶然に乗せたお客さんは終活に向かう92歳のマダム、マドレーヌ。

話しかけるな!そんなオーラが漂っている運転手なのに、マドレーヌはそんなことなどお構い無し。彼女の優しい語り口はまるで歌を聴いているように心地良い。

マダムの告げた行先は、パリの反対側のシャヴァンヌ大通り、これから施設に入ると言う。行先を聞いて驚くシャルルに、「隣ならタクシーは呼ばない」と一言。

金なし、休みなし、免停寸前。毎年地球3周分はまわっているというシャルルは、家族と会う暇もなく、おれの人生は空っぽだとかなり悲観的な中年タクシードライバー。

そんなシャルルに「寄り道してくれない?」とお願いするマドレーヌにとって、人生を過ごしたパリの街には秘密がいっぱいだった。寄り道する度に、壮絶なマドレーヌの過去が明かされていく。

タクシーの車窓から覗くエッフェル塔、シャンゼリゼ通り、修復中のノートルダム寺院、凱旋門、、美しい風景とともにパリのど真ん中を駆け抜けるドライブは、いつしか二人の人生を大きく動かす。

92歳のマドレーヌを演じたリーヌ・ルノーは、1928年生まれの94歳、フランスでは有名な歌手であり女優。エイズ撲滅運動や尊厳死などの活動で2022年フランスの最高勲章に当たるレジオン・ドヌール勲章を受賞。毅然とした態度で人間味溢れる魅力的なおばあちゃんを好演。

46歳のタクシー運転手、シャルルを演じたダニー・ブーンは、1966年生まれで映画監督、脚本、舞台などマルチに活躍する一方、コメディアンとしてもフランスでは国民的人気を誇る。

リーヌ・ルノーとダニー・ブーンは元々、長い間家族ぐるみの付き合いをしている仲だけあって、劇中で次第に二人が打ち解けていく様子は、本物の家族になっていくような自然な姿や立ち振る舞いが垣間見える。

偶然出会った人と数時間過ごすだけで人生が変わっていく。明日への希望や生きる力が湧いてくる。92歳のおばあちゃんが語る並外れた過去の生き様に、驚いて、泣いて、笑って、そして胸がいっぱいになる温かな幸福感に包まれた良質の物語だった。
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