もしもし五反田

パリタクシーのもしもし五反田のレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
4.5
完全に侮っていた。
終始、いわゆる“ほっこり”しているだけのストーリーなのかと思っていた。

もちろん、今日を生きるのも大変なタクシードライバー・シャルルと人生の最期を迎えようとしている老婦・マドレーヌの会話はハートウォーミングそのものだし、
車を走らせてマドレーヌの思い出の地を辿りながらふたりの心の距離が徐々に近づいていく描写は本当に愛らしい。
微笑ましいシーンに、心が暖かくなる瞬間が何度もあった。

でもその合間に差し込まれる、自分を虐げる男性や世間からの嘲りだけでなく、自分自分とも闘ってきたマドレーヌの回顧シーンがめちゃくちゃかっこよかった。

時代にも男にも振り回されてつらいことばかりなのだけど、何が起きても誰かに媚びることなく、自分と、自分の大切なものを守るために意思を貫いてきたマドレーヌの姿は、性別関係なく、観る人の心に深く刺さるものがあるはず。
実際、マドレーヌの「今さら何も怖くない」というセリフは、確かな経験に裏打ちされた強さと自信のある言葉として届いた。

そしてこの映画のよいところは、人間のきれいな部分がたくさん見て取れること。
優しさや思いやり、誰かを肯定してあげることや相手への労り、通じ合うこと、分け合うこと。
そういう“純”なところに触れて、心がクリアになった。

ああ、いい映画だったなあ。