Eike

深い谷の間にのEikeのレビュー・感想・評価

深い谷の間に(2025年製作の映画)
3.2
2月14日に配信開始となったApple+の新作。
監督はMCUでDoctor Strangeをヒットさせたスコット・ディレクソン。
主演は「マッドマックス:フュリオサ」のアニャ・テイラー・ジョイと「トップガン:マーヴェリック」のマイルズ・テラー。

かつての東西陣営が共同で管理する某所。
深い峡谷に立ち込める濃霧の底で蠢く異形の存在。
その監視業務に付いた「訳アリ」な凄腕スナイパー2名の間に生まれた共感は
やがて禁じられた渓谷の秘密に迫る運命をもたらすことに…。

はっきり言ってお話は滅茶苦茶だ。
どう考えてもリアリティの無い設定でありB級丸出しの内容と言えるだろう。
ただ、オープニングから主役の二人が渓谷を挟んで向かい合うまでの導入部が思いの外きちんと描写されているお陰でお膳立ては出来ている。
旬な顔合わせである主演の二人の「演技」と「存在感」を活かしている辺りは評価したい。

ただ、後半舞台が渓谷の底に移ってからの展開は相当に荒っぽいものでちょっと肩透かしを食った印象。
変に政治的な要素を盛り込まずにストレートに異界へのポータルが開いていたという内容の方が面白くなったと思うのだが。

本作、Valentine's Dayに配信開始となった訳だがその理由はこの前半の主役二人の「交流」を描く事こそが本作の肝だからだ。
共に心に傷と葛藤を抱えた孤独な男女が見知らぬ者同士の立場から徐々にお互いを意識し合いながら渓谷を挟んで心が近づいて行く過程が小っ恥ずかしくも微笑ましくて見ものなのだ。

もちろんそのロマンチックなプロセスもデタラメな物ではあるのだがそこは「娯楽映画」。
楽しんだもの勝ちなのだ。
M・テラーはトップガンに続いてタフな軍人のイメージが板についており、鍛えられた肉体も披露している。
しかしお相手のA・T・ジョイ嬢の方はマッドマックスを経ても決して「タフ」な印象はそれほど受けない。
それはそうなのだが本作の鍵はやはり彼女の存在感にあると感じた。
先述の通り本作のお話自体はデタラメでB級丸出しである。
そのヒロイン役が「普通の」美人女優だと恐らく物語の噓臭さが強くなってしまったのではなかろうか。
ジョイ嬢の強味は何と言っても現在ハリウッドで活躍している人気女優の中でも特に個性的なプロフィールである点だろう。
線が細く、モデル体型で印象が薄くなりそうなものだが不思議と印象に残るのだ。
かつてのエバ・グリーンの様にこれからキャリアを重ねて重宝される存在となるかもしれない。
本作の浮世離れした内容には彼女くらい個性的な存在感がなければ保たなかった気がするのだ。

モンスターホラー、アクション巨編といった過剰な期待は禁物だが気楽に見る分には悪くない作品でした。
女性にもおすすめ。
Eike

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