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近江商人、走る!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

近江商人、走る!(2022年製作の映画)
3.4
 母は病死し、父(アキラ100%)と二人三脚で農民として働いていた年端も行かぬ息子に悲劇が訪れる。父との別れは路頭に迷う人生の始まりだ。ようやく収穫した大根を荷車に乗せ、何とか生活費を稼ごうとした銀次に思わぬところから救いの手が現れる。冒頭すぐに鬼籍に入るアキラ100%を筆頭に、とろサーモン村田秀亮はまさかの好演で、その後もたむらけんじにまさかのコウメ太夫と要所にお笑い芸人を配した時代劇なのだが、時代劇として観ればどことなく軽い。時代劇というよりも現代劇をかつらを被って演じている印象だ。今作は大坂商人、伊勢商人と並ぶ「日本三大商人」のひとつであり、現在の滋賀県をベースに全国を駆けまわった「近江商人」の活躍を描いた痛快ビジネス時代劇を謳うものの、日本に通底する社会問題を時代劇に落とし込む斬新なアイデアなのだが、重厚な時代劇を観たいと期待した層にはかなりの肩透かしを食らうだろう。前作『鬼が笑う』で外国人技能実習生問題や日本社会の差別と偏見という現実を真正面から描き切ったMINO Bros.の兄・三野龍一の監督作なのだが(今回は弟ではなく望月辰が脚本を担当)、あえて時代劇に落とし込もうという気概は買うが、方法論がことごとく現代的で今一つ相性が良くない。

 大津の米問屋・大善屋で丁稚奉公することとなった銀次(上村侑)が、強大な敵に立ち向かうべき仲間を1人また1人と見つけて行く過程はなかなかユニークな筋の運びだ。親方(筧利夫)と少々気が強く、かかぁ天下な妻(真飛聖)や大善屋で同じく丁稚奉公する楓(黒木ひかり)に蔵之介(森永悠希)、そして銀次の機転が危機を救うこととなるメガネ屋(前野朋哉)、大工(鳥居功太郎)、茶屋娘お仙(田野優花)たちは次々と銀次の機転に絶体絶命の危機から救われるのだ。失礼ながら幼い頃にほとんど畑仕事ばかりで勉学に励むことがなかった銀次がなぜこのように数字に強く、ビジネス的な天才的な嗅覚を持ち合わせたのかはさっぱりわからぬが、今作は主人公の銀次のまるで一休さんのような頓智の利いた機転による逆襲劇が実に痛快で見物だ。だが堀部圭亮が憎らしさ込みで見事に演じている悪代官の古色蒼然とした演出と展開は、現代的な絵空事を空想の世界で描き切った前半に比べ、明らかに昔の時代劇の定型に回収されて行く。特別出演となった藤岡弘、の演技の重厚さはやはり流石なのだが、今作はむしろそういう昭和の時代劇をなぞるのではなく、若者たちの爽快な青春群像劇に舵を切るべきだったはずで、ややピントがずれた印象は否めない。
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