瀬口航平

ヒトラーのための虐殺会議の瀬口航平のネタバレレビュー・内容・結末

ヒトラーのための虐殺会議(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

これはすごい。すごかった。
なんか観た後感覚が麻痺した感じになった。きっとそういう映画なんだろうと思う。自分の中にも、彼らと同じものが宿っている、あるいは、彼らのように自分もなり得る、という気づきを体感する映画。

正直、日常的に彼らのような精神状態になることは誰しもあるんじゃないかと思った。誰かを敵とみなして、自分のほうが正しい、お前は間違っている、と思うことは誰しも経験してると思うけど、その行き着く先がこれなんだろうと思う。
そういう内面の暴力性に気づいて、どう普段の日常で対処するのか、人間みんなの課題だと思うけど、改めて大事だと思った。

そして、こんなにも事務的で、どこにでもあるような感じの雰囲気で、ユダヤ人虐殺というとんでもない議題を論じることが人間にはできるんだ、ということを体感できたのが良かった。これは頭で知ってるだけではわからないことだわ。
人間の持つ創造性(こんなことに使いたくない言葉だけど)の凄さよ。物事にはあらゆる見方ができると言うけど、こんな風に殺人を正当化できてしまうのかっていう。誰一人何の罪悪感も持っていないのがすごいよね。何なら素晴らしいことをしている、という感じよね。


そして、ユダヤ人虐殺、という部分を、そっくりそのまま別の任務に置き換えられそうなぐらい、この「ユダヤ人虐殺」という任務を遂行することが、何ら特別なものではなく、当たり前のことだという、歪んだ認識。立場は違えど、ここに出てくる人物の中でそこに少しでも異議のある人物は一人もいない。

親衛隊の大将の方、掲げてる信念はユダヤ人虐殺なんだけど、仕事人としては非常に有能な方なんだろうと思った。大将になるのも納得。めちゃめちゃストレスフルな状況下でも、決して感情を荒げることなく、努めて冷静に対処をしようとしている。自分たちのやりたいことを強引に押し進めるのではなく、面倒くさくてもしっかりと全員の賛同を得られるまで議論を重ねる。そして議論に対して非常に前向きに、能動的に参加して、場を乱すようなネガティブな感情的な反応は一切出さない。

正直、大将が、会議を中断する、ってなったときはめちゃめちゃ怖かった。中断して、呼び出されただけなのに、あんなに怖いことないわ。声を荒げて恫喝することより、内側に秘められた暴力性を垣間見ることのほうがよっぽど怖いのかもしれない。

いやあ、良い会議だった、来たかいがあったよ、と伝える大将の顔がなんか爽やかで、そこだけ抜き取ると、とても爽やかな良い上司感が出てて、それもすごいな、と思った。

ドイツ人の方の演技がすごく好きで、今回全員素晴らしかった。こういうテーマだからこそ、ドイツ人としてこの作品に臨む意気込みはすごかったろうと思う。全員、ひとり残らず完璧でした。。

エンドロールの余韻がここまでない映画もないな、とも思った。。あと、エンドロールに入った瞬間に映画館を出ていく人たちがけっこういて、おれがよく見る映画だとエンドロールまで含めて余韻を楽しんで帰るんだけど、この映画の後味はそういう意味では全然良くないです。
話が終わった瞬間に帰る気持ちも少しわかる。感動とか全くなくて、自分の中に空虚な感じが残って、話が終わったら、あと無音のエンドロールだから、ああもうこの映画には何もないな、と思うのよね。
あとけっこう興奮気味に感想書いてるけど、観てるときはけっこう眠いです。議題は特殊かもだけど、内容はほんとに会議なので。そして眠たくなるというのもこの映画のある意味特性だと思う。なんというか、言葉を選ばずに伝えるなら、観ながら徐々に議題の内容がどうでもよくなってきてしまう、みたいな感じ。そんな風におれは自分の中の暴力性を観ていたなあ。
瀬口航平

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