いち麦

正欲のいち麦のレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
5.0
原作未読。“正欲”とは一体どういう意味なのだろう?と見るまで不思議でならなかったが、見終えて納得。なるほど“性”の字ではまるで相応しくない。
精神医学の世界では1960年代頃まで同性愛は精神障害とみなされてきた。 それが今ではLGBTという用語とともに広く認知され多様性寛容を広める運動の一大旗印にされるまでになった。でもその枠からもこぼれ落ちてしまう人たちがいて、性的マイノリティと一口に言っても社会的認知の度合いに大きな隔たりが存在する。そんな状況をリアルに描き出してみせた稀有な作品だった。カミングアウトなど論外、今なお“普通”に擬態しないと生きられない登場人物たちの苦しむ姿が胸を締め付けた。

群像劇のスタイルから始まり、やがて各々の人物たちの物語がしっかり一つのテーマの元に束ねられフォーカスされていく感触にゾワゾワした。繋がり合うことで光の見えてきそうな山場からも決して安易な着地をせず、警鐘を鳴らすかのように結ばれる苦さもまた良い。石井裕也監督作「月」に続き、重苦しい役にチャレンジした磯村勇斗には拍手を送りたい。
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