doji

正欲のdojiのネタバレレビュー・内容・結末

正欲(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

「気を遣わせているのもハラスメントなんじゃないの?」というセリフがぐさりと刺さった。ぼくも30代でひとりで生きていると、いろんなことを言われたり聞かれたりする。そのたびに、それこそ気を遣わせないように「恋愛ってなんだか苦手なんですよね」と、笑いながらこたえていた。すると相手はいつもつまらなそうにする。他に話題がないと、ぼくにマッチングアプリを登録させようとする。

男性不信を抱えている神戸さんが、諸橋くんに気持ちを伝えるシーンがいちばん胸に響いた。たぶん、不快に感じたり迷惑に思う人もいるのだろうけれど、それぞれの正しさや、ありえないとされてしまうことを前に、すこしでも対話をするためには、ほんとうのことばをぶつけるしかなくて、彼女の嘘のないことばに、すこしだけ諸橋くんがじぶんのことを話す、その変化が生じるところに希望のようなものを感じる。あなたがひとりじゃないといいと、そう願いながら別れていくことが、わかりあえない関係性においてもっとも美しいこたえのようなものなんじゃないかなと、あらためて思った。

ラストの寺井と桐生の対峙にも、「ありえない」を前にしてどのように対話するのを描いている気がする。マジョリティ側の寺井は、そのことばを持ち合わせていないので、沈黙するしかなかった。マイノリティは、事情を話すことを強いられることが多いように思うし、マジョリティはそれを聞く力も、それについて話す力も、身につけることを怠ってしまう。それを戒めるラストでもあるように思った。

ただ、ここでは「いなくならないで」と願うことが、だれにでも共通する唯一の欲として描かれているように思うけれど、それが「正しい」とは決め切れないなと思う。神戸さんが話すように、どんなに避けていても求めてしまうというのはぼくもわかるけれど、その欲がなくなっていくことを、祈るように静かに待っていたい気もする。群像劇だし、ある種のカタログのように多様性が描かれているように感じなくはないけれど、議論や思考を喚起する要素に溢れる作品だった。とはいえ原作読まないとそれが映画によるものなのかはわからないけれど。
doji

doji