スカポンタンバイク

フェイブルマンズのスカポンタンバイクのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
5.0
最近、「芸術とは何か?」という話に友人となった。私には正直よく分からないのだけれど、直感を信じて話すなら、この映画は正に「芸術」だと思った。
物語を語るフェイブルマンそのものであるスピルバーグが映す景色はどれも表現として魅力的に切り取られ、1つの物語に昇華される。その様をサムというキャラクターを通して描いているわけだが、彼の作った映画は単なる「フェイブルマンズ」という映画を語る上でのパーツではなく、1人の作家の映画になっている。映画内観客が驚くように、私もその映画に驚いてしまった。スピルバーグの演出力の高さを感じずにはいられない。
しかし、それら映画内映画は単に楽しいだけではなく、常に苦味を放っている。それは表現が備え持つ罪と呪い。それは決して表現から切り離すことはできない。しかし、それこそが、善だとか悪だとかで切り分ける事ができない個人の感情そのものだと思う。そうして切り取られたサムの人生は極めて映画的であり、彼の、スピルバーグの個人の表現として見事に昇華されている。
これは本当に素晴らしい。「面白い」とか「泣ける」とか「ムカつく」とか「笑える」とか、そういう事じゃない。勿論、それはそれで的確にあるのだけれど。それら全てがないまぜになって生まれる分類不可の新しい情動。それは、どんな感情よりも強く、愛しく、憎らしいもの。ひとまず私の中での「芸術」はそう定義しようと思う。