スカポンタンバイク

RHEINGOLD ラインゴールドのスカポンタンバイクのレビュー・感想・評価

RHEINGOLD ラインゴールド(2022年製作の映画)
5.0
これは素晴らしかった。
大傑作でしょ。何故こんなに客がいないんだ....(泣)

筆者にとっては前作「屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ」が最高過ぎたファティ・アキン監督の新作という事で行かない理由がなかった...にも関わらず、時間が合わずに今日までかかってしまった。
予備知識があらすじレベルでもゼロで行ったため、実話としての驚きな展開というのは確かに多くあった。ただ、それ以上にこの監督の絵作りと遊び心に富んだ編集に心がときめいた。視点、時代によって変わる画角・画質、それらがメタ的に自由に繋がれてる様は「デッドプール」のような軽快さを感じた。ただ、それもこれ観よがしではなく、あくまでクラシックな映画の流れを崩さずに取り込んでる所が本当に上手いなぁと思った。内容自体はかなりクラシックな社会派映画と成り上がり伝記映画のミックスのようになっているのだが、この見せ方がどれも新鮮で若々しい現代の映画として完成していると思った。
また、「屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ」と似た話になっている所も興味深かった。フリッツ・ホンカも、ゴミ溜めのような街で何とか自分を変えたい、普通の社会で大成したいというホンカが、環境によって決して避けられない酒と自身の酒乱性によってどこまでも堕ちていってしまうという話だった。ただ、今回のラインゴールドが異なるのは、そこに音楽があるという事だと思う。ジワ・ハジャビも金塊強盗の末に禁固刑が言い渡され、正にどん底まで堕ちるわけだが、それでも彼には音楽があった。どこまでも堕ちたけれど、彼が人生の中で、良い事でも悪い事でも作り上げてきた仲間たちがいた。この獄中での作曲活動は、ジワが生きてきた人生全てを昇華する創作の喜びが詰まっていた。
では、ジワ・ハジャビは何か自分の人生を悔い改めたのだろうか?何かを改めて、音楽と向き合ったから上手くいったのだろうか?そうじゃない所が凄いと思った。この男、何も変わっていない。
ただそれでも、彼が作った音楽のソウルは本物なのだ。彼はラインゴールドを見つけたのだ。そこには善悪を超えた先の、昇華の感動があった。ここが本当に素晴らしかった。