くう

フェイブルマンズのくうのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
3.9
映画馬鹿をステレオタイプに描くのではなく、才能の片鱗を見せつつ、「芸術が傷つけるもの」を淡々と語る。

派手さはないけれど、静かな感動。

スピルバーグ監督を作り上げた血筋、家族の物語。


それにしても、今年に入ってから『エンドロールのつづき』『エンパイア・オブ・ライト』に続いて3本目だわ「映画フィルムは脳の錯覚で映し出されている」話(笑)

私たちは幸せな錯覚を見ているのだね。

他のユーザーの感想・評価

この監督(スピルバーグ)はパンツを脱いでいる。腹掻っ捌いて自分のはらわたがどういう色、形、匂い、感触をしているのかじっくりと確かめながら作っているような極私的映画。魑魅魍魎が跋扈する地獄のハリウッドで半生を過ごし、酸いも甘いも噛み分けた老人の怨念が伝わってくる。映画初体験で目撃する列車の事故、物と物とがぶつかり合って大惨事が起こる。その破壊の光景に少年は釘付けになる。俺が映画を撮るのは破壊衝動からだという告白。精神的に不安定な母親と仕事に没頭して鈍感を貫く父親、そして間男として取り入る父の仕事仲間である友人。それら大人に対する不信、嫌悪、葛藤、あるいは愛情。一家団欒のキャンプにて母が透け透けドレスで踊り狂うことの微妙な見ていられなさ、痛々しさ。そしてそれを見る間男と父。俯瞰する息子と娘。決して表面には浮き上がらない「家族」のグロテスクさ。女の顔をしている母をカメラ越しに見つめ続ける。NTRを偶然撮影してしまったことを超重大な事件であるかのように語る。次の日、友人らと作っている自主戦争映画で主役に対して「俺が全部悪いんだという気持ちで演じてくれ」とディレクション。血塗れで死んでいく敵兵。創作者が私生活の鬱屈を創作に仮託して解消せんとする過程を描いた実にクリティカルなシーンだと思う。普通、幼少期に覚える違和感をここまで鮮明且つ具体的に覚えている人はいない。初めて撮ったフィルムを狭っ苦しい押し入れにて母親と二人っきりで観る。ここで思い出したのは初代『ゴジラ』で恵美子にODの存在を明かす芹沢だ。唯一心を許す貴方だから見せたんだ。こういうところにスピルバーグは感情移入したのだろうか。特に問題は解決せず、憧れのスターと会ってはい終わりのあっけなさも「こんなもんだよ」と諭されるような説得力がある。歴史に名を残す超超有名ヒットメーカーが作った自伝がこんな『田園に死す』みたいな有様であることに世の中捨てたもんじゃないと思えるね
shui

shuiの感想・評価

-
映画の魔法が実在したんだということを、このタイミングで自伝を通して証明せねばならなくなったことの哀しみに心が重くなる

スピルバーグは自分の時代が、映画の魔法の効力が切れたことを理解し、自らの人生と今は亡き映画の魔力を讃歌する作品を撮ったとしか思えない

映画の終焉は既に?これから?もうすぐ?
巨匠達よ、まだ逝かないで

スピルバーグ、活劇の天才
見終わってから日に日に自分内点数が増している。良い映画だった。
50
k

kの感想・評価

4.4
あと2倍長くても観れる映画。
小さい頃からあんなに撮ってんだな…
撮り方次第でどんな事も印象操作できてしまう。

心に残った言葉
『自分の心を満たさないと他の人になってしまう。だから自由に生きていいのよ。』
面白いという枠組みでは語れない映画。
スピルバーグの本当に個人的な家族の話がメインで少し戸惑いました。女の子たちはみんなママについてっちゃうのね。お父さん、かなり気の毒でした。仕事に没頭するしかなくなっただろうけど、魂は死んだよね。スピルバーグのこの描き方を観ていると、彼も母の気持ちを理解しようとしてるけど、傷ついているんだなと思いました。人種差別も加わるし辛い時期。
真実を映したことで打ちのめされ映像から離れたけど、映画の虚構性と自らが作り上げられる面白さに気づいて、再び映画の世界に行きたいと願うスピルバーグの生き生きと自分を取り戻していく様子、青春だなー。最後カメラがキュッと平凡じゃないアングルに変わるのが遊び心でした。
でも、終わった?って、見終わった瞬間は唐突な感じがして驚いたけど。
やっぱり女は家庭と恋だと恋。男は仕事と愛だと仕事。
スピルバーグがスピる話かと思ったら家族愛、人間愛に満ちた良作だった。
車と機関車が激突するシーンや竜巻エピソード、頸動脈の観察など小技と大技の絶妙なバランス。叔父さんのキャラ、オカンの暴走、学校でのいじめなど北の国ですか、コレは。って言うツッコミも合間って大円団。鑑賞後の余韻が心地よい。

地平線が真ん中にある画角はクソだって、最高。
スピルバーグ先生の自伝的要素のある作品なら、我々映画研究部出身なら観るのが当たり前…。
先生が映画作りに入って行く過程を知ることができて、大変興味深かった👍
ただ、お母さんの感性は頂けない。
全く同感できず不快であった😰
それに反してお父さんの潔さ、ここはスピルバーグさんの人格に大きな影響を与えてると思った。
せきだ

せきだの感想・評価

4.4
映画が与えてくれる希望と芸術に没頭することの代償を残酷に描ききったスピルバーグに脱帽
物心ついた時から映画に魅せられたスピルバーグがどのような人生を経て現在に至ったかを家族愛を通して知ることができる傑作
まだまだ現役スピルバーグの遊び心に溢れたラストが大好き
や〜〜よかった。
中学時代の戦争映画の主演、演技なんも分かってないのにいつの間にか入り込みすぎてしまうのとか、高校時代のイケメンが観客の中で唯一監督の"意図"をしっかり理解してしまうのとか、技術的試行錯誤とか、映画の力ってこれよな…!
実家の食卓での全部包んで捨てるだけの片付け、ラストの伝説的監督のやっったら長い葉巻シーンとか、彼の記憶に刻まれてる風景なんだな〜という場面は愛しい。
母もだけど父も、好きなこと絶対諦められなかったというのは痛みでもあり希望でもあるというのも素晴らしいオチだと思う。
尺は長いけど、老人の思い出話を削るなんて野暮なことできるわけなかろう!!
凧

凧の感想・評価

4.0

このレビューはネタバレを含みます

スピルバーグの自伝的映画。彼が初めて映画を見た日から、映画界へと進むことを決めるまでの様子が描かれている。映画の衝撃を忘れられず自分でも再現する幼少期のシーン。子供の撮り方から感じるスピルバーグらしさってずっと変わってないよなーと思った。少年時代は友人との映画撮影に夢中になるが、家族でのキャンプの様子を撮影したフィルムを見直して母親の浮気に気付く。真実を撮してしまったことでショックを受け映画から離れるが、高校で出会ったモニカに勧められてビデオを撮ったことで再び戻る。このビデオを上映した後の、今までユダヤ人いじめをしてきていた同級生とのシーンが熱い。ラストではテレビ会社で働き始め、ジョン・フォード監督に「地平線は上か下だと面白くなるが、真ん中だとくそつまらん」という言葉をもらう。うきうきと歩いていく後ろ姿が映され、その言葉通りに地平線が真ん中から下へ切り替わる。この終わり方は何とも印象的だった。モニカが可愛かったのと、おじさんに忠告される場面が好き。あと父親が不憫でならない。
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