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銀河鉄道の父のmanamiのレビュー・感想・評価

銀河鉄道の父(2023年製作の映画)
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宮沢賢治。詩人、童話作家、一方で科学者として農業の指導にあたった人。ふるさとをイーハトーブと呼んで終世愛してもいた。彼の文章にはロマンチックなのに土の香りが漂い、お伽話でありながら死の香りがつきまとう。そして独特のリズム感を持つ。あの世界観を、光と影、闇、そして様々な風の動きで、きれいに映像化している。
悲運の作家の人生を菅田将暉がさすがの演技力で全うする。家族の制止もふりきり南無妙法蓮華と唱え続ける姿には鬼気迫るものがある。病床での今にも消えてしまいそうな儚さも見事。
他の人と同じようにはなかなか生きられない彼を、威厳を持って厳格に育てたいと思いつつも、すぐに親馬鹿が顔を出して許してしまう父親が温かい。役所広司が持ち味を十二分に発揮しているし、特に『雨ニモマケズ』暗誦シーンはとてつもなくとんでもない。
二人の名優の熱演、そして父と子の情感溢れる関係性はずっと見ていたくなる。実在の人物がモデルだから最期まで分かりきった状態で見ているのに、それでも、賢治が病を克服して、存命中に作品が評価されて、というifを願ってしまう。
二人に比べて、トシの存在感が少し弱いかな。執筆のきっかけを作ったり、『銀河鉄道の夜』をラストでああ絡ませたりするなら、元気なうちに兄妹の絆をもっと強く感じさせてほしい。田中泯演じる祖父との場面など、森七菜が大先輩達に必死で食らいついていくかのような名演を見せて説得力を醸し出してはいるけど、冷静に考えると唐突さはやはりある。
あと、坂井真紀が作中であまりにも老けなさすぎるの不気味。でもこれはもはや邦画あるあるなんだろうか、気になっちゃう私が悪いのか。
あとあと、エンドロールでビックリ。いきものがかりは絶対に違うでしょー。あまりにも合ってなくて、いきものがかりの二人可哀想って気持ちにまでなってしまう。
なにはともあれ成島出監督の前作も鑑賞したことだし、これでますます『52ヘルツのクジラたち』が楽しみになった〜。

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