理か

銀河鉄道の父の理かのネタバレレビュー・内容・結末

銀河鉄道の父(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

二人の子を亡くした父


明治•大正から昭和、結核という病気の恐ろしさに身震いした。
大事に大事に育てたわが子を二人も亡くしてしまう父と母。

父政次郎の子煩悩ぶりには驚く。
文明開花の明治の父だと祖父喜助に言い切る父政次郎。
祖父喜助もまた長男政次郎の誕生を喜んだ父だった。

賢治が赤痢に罹患した際には病院に泊まり込んで割烹着をつけて看病。自身はその後腸カタルに罹るぐらい弱るまで尽くしたのだろう。
質屋を営み裕福な暮らしで賢治の思うまま学校に通わせる。賢治のわがままに怒りつつも最後は折れて譲る父。
療養しているトシの元に行き母と交代してご飯を作ったり看病したりする父。
トシを見舞いに来た賢治が作品を読んで聞かせるとトシが喜ぶのを見て喜ぶ父。
トシの最期を迎える為家に帰る大八車を引く父の必死な姿。

アンデルセン童話に憧れる賢治とトシ。
賢治はもともと精神的に虚弱なのか。
人のために何ができるかずっと考えて来たが、と。
なぜか日蓮宗に傾倒。
詳しい入信理由が描かれていないのは、賢治の突然の思いつきか、実家の浄土真宗に対抗してか。
(『漢和対照妙法蓮華経』の『如来寿量品』を読んで感銘を受け、傾倒していったらしい。
家出して国柱会館に。母親からの仕送りにも手をつけず。
トシ病気の電報受け取り実家に向かう途中、
原稿用紙を大量に買う。
別荘で療養するトシに風の又三郎を読んでやる。
銀河鉄道の夜も。トシ喜んで聞く。
実家に帰ったトシ、
トシ、虫の息の中、アメユジュトテチテケンジャ。
賢治は庭の雪を取って来てトシの口に含ませる。
トシの葬式。賢治、狂ったように日蓮宗を唱える。
大丈夫か、と聞く優しい父。

唯一の賢治の信奉者だったトシを失い、
何をする気も起こらない賢治に
父がトシの代わりになると言う。
春と修羅の永訣の朝、アメユジュトテチテケンジャ。

評判は良かったのに売れない。
買い占める父、賢治。
別荘にこもって本を書く決意をする。
農業をして農民にも地質学を教える。
羅須地人協会。
チェロも演奏。

結核発病。

賢治は父に、お父さんのようになりたかった。と言う。子供の代わりに物語を生んだ、と。
ああ、だからワシは賢治が書く本が好きなのか、
孫だから。

昭和8年、病床に臥せる賢治に農民の客。
必死の思いで、話を聞く。
身売り、首くくる、などこの農民の窮状を理解できたか?
この客を迎えた賢治の家の様子とはあまりにかけ離れている。

父が身体を拭いてやろうとすると、
母が私の子だから私にも世話させてくれ、と。
身体を拭いてあげると気持ちよくなった賢治。

父、雨ニモマケズを叫ぶ‼️

昭和10年、全集出来上がる。

微々たる宮沢賢治さんファン。
雨ニモマケズを小6の時全文暗記していた。
宮沢賢治さんの細かな背景を知らなかった。
財産家のボンボンとは思いもよらなかった。
貧しいながら色々多才だと思っていた。
よくよく考えれば詩や小説書いたりチェロ弾いたり、
余裕ないとできないわけだ。
農業博士、天文学など知識豊富な面もあった。
人のために何かしたかった思いはあるのだろう。

トシ、アメユジュトテチテケンジャ、と
今際の際のトシが雪を取って来てと賢治に願い、賢治が取って来てあげる様子が印象に残っている。

菅田将暉さんを観ていてよりもっと泥臭い雰囲気の俳優の方がふさわしく感じてしまった。
大変上手いのだが、どんな役もそれなりにこなす器用さが鼻についてしまう。
朴訥さが感じられないのかな。
本作そこがダメであった。
父と息子の物語、脚色されているかと思うが、
あんなに親バカな父と勝手気ままなボンボンのペアとは知らなかった。
人の内面を外からは計り知れないが、
あの息子にして数々の作品を生み出したか合点がいかないようでもあり、内面はまた違ったという思いもある。

ただただ、役所広司さんの演技には感嘆しかない。

記:
看護師ではなく看護婦だったこの時代、字幕マチマチ
大正3年盛岡中学校卒業、
質屋を悪徳と言う、
理か

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