藍紺

aftersun/アフターサンの藍紺のレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.4
観終わってしばらく経つのだが余韻が凄い。ボディーブローのように今も胸がざわつく。漆黒の闇夜の寄せては返す波音が耳に残って離れない。

父はあの時何を考えていたのだろう、大人になった娘が再生するビデオテープ。血がつながっていても相手の本心はわからない(これはだれしも心当たりがあるはず)。当時は何気なく投げかけた会話の残酷さ。ビデオカメラが映し出す映像には、幼い自分が見えていなかった父の苦悩や葛藤が克明に記録されている。記憶を上書きする記録。 夏の日の太陽とか、塩素の効いたプールの匂い、泳いだ後の体の重だるさ、父の背中。私自身の記憶も相まって映画の中の少女を追体験している感覚になった。

余白の多い作品で観客に委ねる部分が大きいが、父娘を演じたポール・メスカルとフランキー・コリオが抜群に素晴らしく、彼らの繊細な演技が物語をより強固にかつ高みに押し上げていたように思う。父の胸中をそのまま謳ったような劇伴も良かったし、幕引きの鮮烈なショットにも打ちのめされた。
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