totsu9piero

aftersun/アフターサンのtotsu9pieroのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

娘と父親。回顧と後悔の物語。
2人で過ごす夏のひとときは懐かしく温かいが、何か悪いことでも起こってしまうのではないかという不穏さが常につきまとう。明日になればまた笑って2人で話しているだろうか、と夜が来るたびに思わされる。(親の体調が悪いのに気づいた時や、親を酷く怒らせてしまった時の子どもの心境のよう。寝静まった部屋で、神に祈る気持ちで朝を待つ。)

背伸びをして大人に追いつこうとする11歳の娘は、アルコールやドラッグ、男女の付き合いなどに興味を持ち始める時期で、同年代や年上の誘いなど、一歩間違えれば危険なこととも隣り合わせ。わかったふうな口ぶりや顔をしたりもするが、分別はしっかりある。おそらく父の抱える問題に対しては子どもながらに感じとっている。
娘の前では良き父の姿に見える30歳の父親は、娘のいない場面ではどこか脆くすぐにでも崩れてしまいそうな危うさが垣間見える。それが何かはわからないが、何か問題を抱えているかもしれないということはわかる。深夜3時でもカメラの映像を見て起きていたり、誕生祝いの歌を贈られた後に部屋で独り号泣していたり、夜中に1人で真っ暗な海へ入っていったり、唐突に鏡に映る自分に唾を吐きかけたり。
同じ危うさだが希望と絶望。その違いが苦しい。

カラオケのシーン。子が親に求めることや子から見た親の大きさは、親自身が考えるものとは比べ物にならないくらい大きい。(冒頭の130歳。)それを受け止めきれない父の姿。カラム自身のキャパシティでは応えられないし、応えられないことが辛い。娘のことは大切に思っているのに。この後娘を一人にして先に会場を出て独り灯のない暗い海に行き、部屋の鍵をかけたまま寝てしまう。この日はカラオケのシーンから父親という殻がだいぶ剥がれてしまったような気持ちがした。

父親と同じ31歳を迎える、かつて少女だった娘。点滅したダンスフロアのシーンで対峙するのは、同じ31歳の姿の父親。崩れそうになりながら嫌がる父親をどうにかして抱きしめているように見えた。
娘の心は父親に届いたのだろうか。戻らない時間を巻き戻して、心の芯まで抱きしめられたなら…。懐かしくも温かい映像が余計に胸に刺さり息が詰まるほどに苦しい。エンドロールの音楽がさらにそれを助長する。昔に思いを馳せるようで、戻らない時間を悔いているようで、それでも、起こってしまったことは覆らない、そんな感情が伝わってくる。

娘も父も演技が素晴らしい。こちらまで二人の物語や関係性にどっぷり浸かることができた。逆にしっかりと浸れすぎてしまって、死がもの凄く身近にあるもの、希死念慮が実態を持ってわかるとともに、それに引っ張られる感情までもなんとなくだが伝わってきた。娘との旅行の思い出、温かくて眩しすぎるものに目がくらんでしまって、どうにも心が重くて受け止められない心境。心が万全な時に見なければ引っ張られるほどに重厚で繊細な二人の演技。

これは、、かなり苦しかった。もう一度観て最初から分かった上で改めて感じたいが、心がもたない気がする。
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