ロシアの鬼才アレクサンドル・ソクーロフ監督による、これまで観たことのない映像体験。
白黒の版画のような世界を行き交う独裁者たち。
スターリン、ヒトラー、ムッソリーニ、チャーチル。更にイエス・キリストらしきSupreme Forceなる存在や、ナポレオンなども。
どうやらここは煉獄(天国と地獄の間に位置する中間的な世界)で、天国に続く大きな扉が開くのを待っているようだ。
独裁者たちはゆったりと行き来しながら、互いを嘲笑、揶揄したり、大海のうねりのような民衆を扇動したり、死者たちから憎しみを浴びたりするが、生前の罪を償うような態度は当然ながら見せない。
ディープフェイク/AIで生成されたようにも見える彼らの映像は、大量なアーカイブ映像から編集されたもので、語るセリフは彼らの手記や発言をアフレコしており、完成まで6年の歳月を要したという。
画面上に同じ人物が複数登場したりするので、より冥界感が漂います。
スターリン、ヒトラー、ムッソリーニらはやはり天国に行けるはずはないものの、地獄に落ちるわけでもなく、煉獄に漂い続け、現実の世界に何度でも蘇る存在のように見える。
つまりP大統領のような世界秩序を崩壊させる独裁者はこれからも生まれ続けるんだろうなという、諦めと憂鬱感漂う読後感でした。