メランクさん

あしたの少女のメランクさんのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
5.0
地獄のような作品でした。

実家が農家で技能実習生を受け入れていて、
そのシステムの欺瞞性をずっと問題視してきました。
でも実際に人手のない中で親にやめろというわけにはいかないし、
どうすることもできないという歯痒さをずっと感じてきました。

本作で描かれているのも「実習」という名を騙った労働力の搾取なんだけど、
日本でいうところの工業高校、商業高校の話なのかな?
日本が同じようなことになってるかはわからないけれど、
まぁたぶん似たり寄ったりの構造は間違いなくあるんだろう。
でもぜんぜん知らなかったし、ヤバいと思った。

何が地獄かと言うと、とにかく止めようがないシステムがしっかり根を張ってて、
地方自治体の教育庁の人が言うように
彼女にも止められないし、抗えない。
いくら警察だからって切り込もうにも
ペドゥナができることなど知れている。

ペドゥナぜんぜん出てこないじゃんと思ってたら、
主人公が死んでしまうことで2部構成だと悟る。
でもこの人に何ができるよと思って見始めるんだけど、
ペドゥナが動き続け、殴ってくれることだけが、
とにかく胸を締め付けてくる。

彼女の背景はほとんど語られることはないけど、
深く傷ついて、なんの希望も持っていない。
そんな彼女が死んだ少女の足跡を追い、
彼女を殺したものに辿り着こうとする。

とにかく視線や沈黙の演出が凄まじい。
死に至るまでの少女がどれだけ口を閉ざし、
大人たちがどれだけ目を逸らしているか。
両親、上司、学校も余裕がないんだよな。
決して少女を苦しめたいわけじゃないけど、
彼らも生活のためにやらねばならないことをやる。
とにかくシステム自体の地獄さを突きつける。

親として思ったのは、無知の恐ろしさ。
そう今や学校は信じられるような場所じゃない。
ちゃんとウォッチすることが本当に必要。

マイケルムーアのドキュメンタリー見て
あーアメリカってやべーなって思ってた20年近く前、
日本もこうなっていくのかなぁと予感してたころを思い出す。
日本も韓国も間違いなくアメリカでうまくいった愚民政策が採用され、
富裕層が無知を搾取していく社会が現実になっている。

無力なペドゥナはぼくらのメタファーだけれど、
せめてこのクソな世界でペドゥナでありたい。
殴って睨みつけてできる限りの正しいことをしたい。