真田ピロシキ

あしたの少女の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
3.7
『私の少女』のチョン・ジュリ監督が再びぺ・ドゥナとタッグを組んだ新作。チョン・ジュリです。左目が光って中国人の女カンフー達人が大好きなテコンドー使いの激推しキャラではありません。それはハン・ジュリです。これは一度言うことにしている。

本作は韓国で実際に起きた出来事を下敷きにされていて、実習生として大企業下請けコールセンターで働いていた高校生が入水自殺するまてが実話ベースの模様。この会社がワタミや電通のような最低悪徳企業なのは言うまでもないが、映画から見えるのは「この会社クソだな」ではなくもっと広い社会全体の病根。コールセンターの後任チーム長であるメガネ女も就職率を上げるため機械的に生徒を送り出す高校も責任はないと開き直る役所連中も彼ら彼女らの意思よりもっと上からの圧に晒されてのもの。更に言えばコールセンター職員を疲弊させるクレーマーも多くは何度もたらい回しにされた挙句に解約を思い留まらせられてで、そりゃ暴言を吐きたくもなってくる。良心で客の要望通り素直に解約させると咎められる仕事。まともな精神をしていたら耐えられはしない。

コールセンターを離れても工場では主人公ソヒの彼氏を坊主にさせるようなイジメが横行して、出火を外国人労働者のせいにされた話がされている。スマホで配信しているソヒの友達はくだらない内容なのだろうが、心ないコメントを次々とぶつけられ傷つく。必要ないものも生産し売りつけなければいけない資本主義と数字による成果ばかりが評価される新自由主義のえげつなさがこれでもかと見えて、今日本で低賃金派遣労働に従事している人などが見れば心を殺されそうな迫真性を有している。ラストシーンで生前の踊るソヒを見て涙するペ・ドゥナ演じる刑事は子供に与えなければいけなかった良き社会を奪った大人世代への糾弾と子供世代への謝罪。

私はもう日本はどうしようもないと思いどうにか韓国への移住をできないかと考えているのだが、この映画に限らず色々なもので韓国もそこまでパラダイスではないことが分かってきてて、特別優れた技能を持たない外国人にはハードそうである。だがそれでも人権を嘲笑い私利私欲だけのクズ政府に媚び諂う臣民が多数を占める日本よりはちゃんと声を上げる人が多くてマシそうなんだよなあ。