ルイまる子

薔薇の名前のルイまる子のレビュー・感想・評価

薔薇の名前(1986年製作の映画)
4.0
14世紀イタリア。修道院で起こった一連の殺人事件の容疑者として審問会を行う。異端のせむし男、魔女と思われている貧しい女、そして異教徒?(正統なキリスト教ではない)男、が捕まえられ、審問にかけられる。司教は一方的に彼らを有罪にする。この一連の殺人事件の解決に招かれたウイリアム神父(ショーンコネリー)は、犯人は他に居ると知りつつ、司教に従う。だが、「福音書の意味を取り間違えた罪」「清貧と愛を混同した罪」などの本質を指摘する。

*この本質とはどういう意味かと言うと、人々が惑わされている事実に静かにメスを入れたということだ。彼らの罪はそのような簡単な罪で、一連の殺人事件の罪では勿論なく、そして魔女裁判や異端審問にかけられる罪でもないという意味である。「異端」とか「魔女」が悪魔で、彼らが全ての責任であると決めつける時代への警鐘だ。時代の転換期だったから起こる数々の認めたくない出来事から目を逸らすためのイジメやストレス発散に対し指摘したのだ。本質に目を向けることをせず、人々が持つ恐怖のエネルギーを一方的に彼ら、弱者や少し変わった人たちのせいにする。「権威ある人達」そしてサイレントマジョリティに対しカツを入れたわけだ。

ショーンコネリーのさすらいの神父がすごく良い、その弟子、クリスチャンスレーター演じるアドゥソだったかな?いいね〜(この後大分してから『トゥルー・ロマンス』へ繋がるわけか。もうその片鱗が出ていますね)のコンビが素晴らしい!このアドゥソが15歳頃の修行時の昔語りをする設定となっている。なんか日本の黒沢映画のまっすぐに悪を退治する侍映画みたいな、よどみ切った世界の中、雲の切れ間から少しだけ差し込む光が見えた、みたいな、二人の数日間の小さな出来事という設定だ。

西洋史好きにはおススメだが、魔女裁判とかを良く頭の中で考えた上で見た方が良いかも。そうでないと単なる中世の、おどろおどろしい、気持ち悪い地下牢でわあわあ揉めてるだけの映画に見えてしまうだろう。

追記:『犬神家の一族』はまさしく本作のインスパイア作品だろう。湖から突き出す逆さまの足、あれは水瓶から突き出す足と同じ表現だ。ストーリも似ている。このような名著を読まずに映画も今まで見て居なかったことを後悔。
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