りっく

To Leslie トゥ・レスリーのりっくのレビュー・感想・評価

To Leslie トゥ・レスリー(2022年製作の映画)
4.5
賞レースの前哨戦でほとんど名前があがらなかったアンドレア・ライズボローが突如アカデミー主演女優賞にノミネートされたことに賛否両論あったが、本作の彼女を見てこの演技が見過ごされなくて心底良かったと思った。実在感や生活感、強情や傲慢や見栄の裏側に隠された脆弱さや羞恥心や虚無感を見事に体現してみせた。

彼女の役柄は一見すると厄介者で邪魔者で周囲に迷惑ばかりかける自業自得な女に見える。皆生活することに必死で、人生を立て直し、自らの意志で進めようとしている。だからこそ、いつまでも自立せずに酒浸る彼女だけが取り残され、宝くじが当たった栄光と転落の人生を哀れな成れの果てと言われ、いつまでもネタにされ続ける運命が待ち受けている。

本作のハイライトは、酒場の場面だろう。宝くじを当てた店は持ち主が変わり、店内に飾ってあった当時の彼女の写真も取り外されている。そこで飲んでいた通りがかりのカウボーイに酒を奢ってもらおうと誘惑し、ダンスに誘おうとしても丁重に断られる。

カウボーイというアメリカ開拓期から存在する古き良き時代の象徴からもその存在を拒絶される彼女だけが、時代に取り残されている。そこでヤケクソになって踊り、カウンターでひとり黄昏る彼女の表情が本当に素晴らしい。

人生は大抵つまらなく、うんざりしてしまう。だが、バカだと思われてもいいから夢を持ち、自分のことを気にかけてくれる人間だけと過ごす。たったそれだけでも、人生がほんの少し豊かになる可能性を彼女は示してみせる。何でも周囲や環境のせいにし、悲観するだけの人生からの脱却。その過程に心を鷲掴みにされた。
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