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ゴジラ-1.0のnetfilmsのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.0
 まぁあの簡素なタイトル・ロゴと逃げ惑う人々の予告編を観て何と言うか嫌な予感がしていた割にはそんなに悪くないゴジラ。というかゴジラは最強の極悪怪獣で明らかに悪いのだが、前半からこれ程人間ドラマに特化した方向性で、おまけに敷島浩一(神木隆之介)という明らかにキャラの立った男をゴジラの対角線に置くことそのものが意外で、とにかくちゃんと物語と人間ドラマがある。『ALWAYS 三丁目の夕日』ばりの昭和20年代の風景は、山崎貴がゴジラの設定そのものを自らが得意なフィールドに引き寄せたはずで、庵野秀明の『シン・ゴジラ』における現代とも明快に区別出来る。敷島の物語というのは正に戦争で散ることが出来なかった男の懺悔の歴史で、玉砕覚悟の特攻隊に乗ったは良いが死をもって抵抗する勇気がなかった。そんな男の気持ちは痛いほどよくわかる。戦争なんかで簡単に命など散らせたくないし、生き残った者には生き残った者なりの謙虚さが浮かぶが、当時は栄誉の兵隊や戦死が肯定され、彼のように生き延びた人間はひたすら肩身の狭い思いをしなければならない。そんな男が典子(浜辺美波)と出会い、娘の明子の父のようなポジションにいきなり置かれるのだから。今作は正にこの疑似家族の父親・敷島の成長物語である。

 一方で山崎貴は『ALWAYS 三丁目の夕日』ばりに正調な物語の中に突如ゴジラを登場させる。それは不意に起きる天災のように突如、日本列島に禍をもたらす。庵野版『シン・ゴジラ』は現代の物語だから、政府側の閣僚や都知事、自衛隊などの連携にディザスター映画のリアリティを持ち込んだが、今作の時代設定は1945年~47年という時代設定という戦後の混乱期であり、まだ自衛隊は誕生していない。ある種、民間人だけで組織された集団がゴジラに立ち向かうリアリティとしてはまさにニッチを責めた勝利で、巡洋艦「高雄」や戦闘機「震電」を持ち込むにはこのわずか数年しか残されていない。「新生丸」に集いし面々は、『ALWAYS 三丁目の夕日』の情けない吉岡秀隆の再登場には笑ったが、技術士官・野田(吉岡秀隆)と「新生丸」船長の秋津(佐々木蔵之介)と敷島のやりとりが思いっきりスティーブン・スピルバーグの『JAWS』で嬉しかったし、本線に連なるエピソードがどれも感じ良く、伏線回収もある程度しつつも物語は終盤まで一気にギアを上げて行く。対するゴジラ側の意図が最期まで不明瞭な辺りも完璧で、人間側の手前勝手な理屈など怪獣には関係ない。歴代数作レベルに刺々しいゴジラの内部被ばくの色は青で、あのジェットコースターの頂上までの道程のような絶望MAXな攻撃態勢のビジュアルも良かった。願わくば野田の作戦はもう一ひねりあっても良かったが概ね満足した。というか山崎貴の今作へのアプローチは『ALWAYS 三丁目の夕日』で目眩ませしているが完全に『永遠の0』へのリベンジではないか?
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