つかれぐま

ゴジラ-1.0のつかれぐまのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.5
23/11/8@TOHO渋谷❸

『シン・ゴジラ』の後という貧乏くじ(メタ台詞が数回)にもめげない山崎監督。ゴジラと神木君の怖さは堪能したので「面白かった」と素直に言いたいが、擁護できない点も。惜しい!

徹底して『シン・ゴジラ』の裏を狙った設定は成功。
時代:平成➡昭和
戦場:陸上➡海上
視点:組織➡個人
シンが描かなかった物を補完するように見せてくれる気持ち良さ、「昭和、海上、個人」という要素がいずれも山崎監督の資質にも合っており、さすがはヒットメーカーという慧眼だ(この人はプロデューサーのほうが適職では)。そして肝心のゴジラは本当に怖かった。

今回のゴジラには良くも悪くも反核メタファーの色合いは薄く、主人公・敷島をどこまでも追い詰めるトラウマの存在だ。元軍人とはいえ一人の市民を最後まで主人公として進めるためには適切な設定だったと思う。物語がつるつると上手く進んでいく上に、そんな設定が産み出した「ほぼ漁船vsゴジラ」というまるで『JAWS』な初対決も面白かった。敷島に賑やかな仲間ができて嬉しかった。

典子の内面が掘り下げられず、出自や存在がどこまでも透明な「不思議ちゃん」なのも、負(マイナス)のアイコン=ゴジラに相対する、正(プラス)のアイコンとして置かれている「妖精」だから。もしくは敷島の両親が子を思う故の「精霊」だろうか(典子の背後には常に位牌)。そう解釈するとラストシーンはありだ。彼女のキャラクター造形は悪くなかった。典子という名は、戦争未亡人である『東京物語』の紀子へのオマージュかな。閑話休題。

擁護できない面も。
『永遠のゼロ』の反省からだろうか?右と左のバランスを必死に取ろうとしているのは伝わった。だがどうしても右寄りの描写のほうが説得力を持ってしまっているように思えた。右の描写が映画的に美しいのに対して、左側のそれは説明台詞を置くことで済ませているような。

終っていない自分の戦争を終わらせる。
何度も叫ばれるこれがテーマであるのなら「戦わない」ことこそが、その解であるように思えてならない。特にクライマックスの敷島の行動には?。あれだと整備士・橘の「終戦」であって、敷島のそれになっていないのでは。山崎監督が一体何を見せたいのか?本来なら一番心を揺すられる場面のはずなのに、見ていて混乱してしまった。そして最後の敬礼。あれは何に対してなのかな。私が大好きな『ガメラ2』のアレがやりたかったからなのか?だとしたら、それ全然意味合いが違うんだよな~。

(怪獣プロレスに堕した)最近のハリウッドゴジラよりは全然見応えがあって、日米でのヒットを願う程度には好き。それだけに残念でならない。神は細部に宿る。

『シン・ゴジラ』大絶賛レビューは↓
https://filmarks.com/movies/60579/reviews/31367530