つかれぐま

オッペンハイマーのつかれぐまのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0
24/4/2@イオン調布_IMAX

自らの所業を「神話化」しようとするオッペンハイマーは高次元の中二病。それ、美化以外の何物でもないから、という冷ややかな眼差しは何処へ。

主人公オッペンハイマーの主観視点。
彼が可視&幻視できるものだけを繋げたといえるバイオグラフィーだ。だから彼が見聞していない広島と長崎の惨状を本作が映さないのはむしろ自然で、そこには異論はない。ただ、それならばそこを埋めるだけの「核の恐ろしさ」を観た者に植え付ける、トラウマ級のショットが欲しかった。『シンドラーのリスト』における赤いコートの少女😭のような。

その意味で残念だったのが、トリニティ実験の核爆発。CG嫌いのノーランが本当の爆薬を使って撮ったと聞くが、これがどうにも核爆発には見えない。まさか本当の核爆発を起こすわけにはいかないので、ここはCGを使うなり、もうひと工夫すべきところだったんじゃないかと。

「これはドキュメンタリーではなく、ひとつの解釈なのです。それが私の仕事であり、物語による、ドラマティックな映画づくりだと思います」
とノーランは語るが、それならば人類史を塗り替えたあの爆発を(オッペンハイマーの眼にはこう見えたという体にしてでも)もっと恐ろしい「地獄の業火」としてドラマティックに見せるべきだったかと。そのためのIMAXでは?『インターステラー』の凄まじい高波🌊は、これがもう人知の及ばない世界であることを印象付けるに十分な説得力があった。そういう画にして欲しかったな、ここは。

以降、終盤の失速、迷走は否めない。
こちらの集中の限界、時系列操作に酔うノーランの悪い手癖(ドラマの強度が低いから解きほぐしてやろうという気が湧かない)、ストローズがなぜそこまでオッペンハイマーを妬むのかが分からない(ノーランの意図は『アマデウス』におけるモーツァルト&サリエリらしいが、あまりにも演出不足)など理由は考えられるが、くだんの核爆発描写の物足りなさが本作を人類史の重要な1ページではなく、ある一国のつまらぬ政治犯探しへ矮小化させてしまった印象(チャゼルの『ファーストマン』を思い出した)。そういう映画も良いが少なくとも3時間のIMAX大作がやることじゃない。彼にしか撮れない「ノーラン映画」をこそIMAXで観たい!

自分的にはノーラン作品ワースト。
まあ、これはアカデミー賞を獲りに行った「よそゆき」作品なんだろうな。次作では「俺たちのノーラン」が普段着で帰還することを信じて待ちたい。

それまでヴィルヌーブが暫定IMAX王者