つかれぐま

ブルーベルベットのつかれぐまのレビュー・感想・評価

ブルーベルベット(1986年製作の映画)
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序盤30分間「耳を拾う」他は何も起こらない。これは変態的な撮り方だけで何か起こる(or既に起こっている)不穏さを演出する挑戦かなと想像した。例えれば怪獣の出ない怪獣映画か。さすがに何も起こらないということはなかったが、あながち間違った見立てではなかったと思う。外面ではなく、内面に起こったことを描かんとする作品。

人間の中の「光と闇」二面性がテーマ。
印象的なのは主人公がクローゼットの中から、二人のオトナが及ぶ変態行為を覗く様。闇の深淵を垣間見る本作のターニングポイントだが、見た目はクローゼットという闇から明るい室内を覗くという逆の構図になっており、どちらが人間の本質なのかが混然とし始める。それを否定も肯定もせず、ただアートの題材として撮ったデビット・リンチの才気煥発。凄い両親を持つ「映画界の貴族」イザベラ・ロッセリーニがニンフォマニアを演じるというのもメタな二面性表現だ。

意味のないキャラクターかと思っていた警察署長のお嬢さんサンディーも、彼女が最後に主人公を受け入れたことで、作品の深みが増した。サンディー同様に「善良な市民」そのものに見える親たちも、一皮むけばわからないぞという苦い後味を残すエンディングだった。

以降『パルプフィクション』『アイズワイドシャット』と、凄い監督が次々と性的倒錯を描き始めたのも本作の影響か?