やさい生活

ゴジラ-1.0のやさい生活のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.0
ゴジラ関連作品を観るのは初めてだったが、昔からあの独特の鳴き声が嫌いだった。獣の咆哮のように低くはなく、呻いているかのような妙なトーンで、耳の奥にいつまでも残る。不快で聞き苦しい。鳴き声は「ゴジラがまだ生きている」証左だ。どんなに手を尽くして攻撃しても水面からまた聞こえるゴジラの呻きに敷島たちの積み重なる絶望が迫ってきて胸が塞いだ。それでも戦争や理不尽な蹂躙(天災)を直に経験した人間としていない人間では一生分かりあえない感覚なのだろうと思った。この映画がアメリカでウケたという事実に対しても色々考えてしまう。

大切な人を次々失う敷島の慟哭も、死なずに(死ねずに)暴れるゴジラにリンクする。彼に限らずゴジラ-1.0に登場する戦後の日本人男性は「生き残ってしまった」罪悪感を共有していたのではないだろうか。生き残った人間は生きるべきだと思いつつも拭えない罪の意識を大なり小なり抱えている。自然に行われる軍隊式の敬礼や作戦説明の場での振る舞いなど、彼らは皆戦争帰りなのだということを幾度もディテールで突きつけてくる。

野田の「未来を生きるため」という言葉や結末からも戦争の犠牲に対する反省を描く、美談にしない意図は感じた。それでも、私は政府に見捨てられた退役軍人たちが未来のために怪獣に立ち向かう姿を肯定的に描くことに抵抗を覚えてしまった。「情報統制はこの国のお家芸だ」というフレーズが幾度か出てくるが、それにしても社会が終盤に至るまで無関心すぎる。これも戦争に行った者同士でしか理解し合えない地獄を表しているのかもしれない。

神木隆之介演じる敷島の涙も出ない虚ろな表情に改めて「俳優って凄いな……」と思わされた。