やさい生活

名もなき野良犬の輪舞のやさい生活のレビュー・感想・評価

名もなき野良犬の輪舞(2016年製作の映画)
4.0
見よう見ようと思っていた不汗党

冒頭の「殺し方が原始的である程罪悪感が残る」っていう語りが最後のジェホとヒョンス(ジェホとビョンガプ)で綺麗に回収されていた。
時系列はかなり前後するが、テンポも良く分かりやすい。構図も凝っていた。(刑務所の運動場でラインを引くヒョンス)
肝の据わったエリート刑事が潜入捜査中の数々の理不尽によって情緒めちゃくちゃになっていくヒョンスをイムシワンが好演。キムヒウォン演じるジェホの兄弟分ビョンガプの天然というかズレっぷりと不憫さも良かった。ヤクザのおじさんがぽろぽろ涙を零すところが観られる映画ってあんまりない。恐らくジェホに人間として惚れていて、「お前は惑わされてる」と言い続けるも聞き入れられない可哀想なビョンガプ…。

そして「信じる」を軸としたヒョンスとジェホの愛憎がまた良い。個人的にジェホがヒョンスのいない所で彼を「착하다」と評していたのが印象的だった。愛されたことも人を信じたこともないジェホが刑事であることを自分から告白してきたヒョンスを見た時の(知っていたとはいえ)心情やいかに。ジェホ本人の「子分にしたい訳じゃない」という言葉通りヒョンスは年齢の離れたジェホに思いっきりタメ口を聞く。武士道的な男性同士の絆に近いノワール映画のホモソーシャルともまた違う距離感。韓国ノワール界の中でも異質なバディかもしれない。この妙な純真さがラストに向かっての緊張感とカタルシスに一役買っている気がする。ソルギョングも掴みどころのない役が上手いもので2人の関係性の変化は表情からしか察せない。結局は絆されてたのはジェホだったっていうね。ラストシーンはこれまでの絡み合う策略を翻弄され続けた当事者ヒョンスがぶった斬るカタルシスと共に彼のこれからが気になるような終わり方。責任感の強い彼は罪を背負って生きていくんだろうなあ…。
ところで邦題が謎すぎる。誰のセンスなんだ。