シェパード大槻

ゴジラ-1.0のシェパード大槻のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
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なぜ生が死よりも尊ばれているかについていつも疑問に思っていたが、「もともと生が死よりも価値がある」からそうなっているのではなく、脆い一人の人間の生に対して多くの人が尽力しているそのドラマが美しいからだとわかった。死ぬ方が簡単な中で生きようとする動きが良いのであって、点ではなく矢印の方が本体であったんだな。現在は人命がすこぶる重いんで、ノリコも敷島も死なないという結末は世相を表していて(ドラマとしてではなく社会における映画の役割として)良かった。
本作は芸術的ではない分、玄人づくりだったと思う。アクション、戦争、自責、家族愛、団結、友情、ワクワクさせる作戦、などの場面の切り替わりが「ちょうどよ」すぎてその心地よさにすら気づかないくらい。キャラクターについても、それぞれの正義が少しずつ違うけれどそれを曲げずにしかし同じ方向に向かって収束していくのがよかった。キャラクター描写で言えば成績の良い飛行機乗りの敷島がレザージャケットとバイクを愛用していたのが細かくて面白かった。敷島と橘が無言のうちにもお互いに過去から救ってやろうとしているところもよかった。小僧の配置もワンピでいうところのウソップ的な良さがあった。本作は映画づくりの方法論というか、人を惹く映画における物理法則的なものを丁寧に使っていたのかなと思う。多くの映画では監督に対して二元的な気持ちになるが本作ではならない。多分、芸術家的なこだわりよりもみんなが楽しめるを優先する姿勢。鑑賞中に感情がジェットコースターに乗せられて物理的な感動をしている感じがあったもん。爆音に映える静寂、情けなさに映える覚悟、意地悪さに映える温かさなど「相対」の利用も、上がらないと落ちれないジェットコースターみたい。特に、作戦開始シーンのゴジラテーマがカッコよかったのはそれまで音楽があまり前に出てこなかったからだと思う。直接的すぎないが婉曲すぎもしない表現で、興醒めさせずにしかし誰のことも置いていかない技術があったと思う。(深海魚が浮いているところを映像だけで済まさずセリフでも説明したり、敷島が飛行機に乗った時秋津に「無茶すんなよ」と言わせることで特攻作戦が秘密であることを説明したり。)
話題の娯楽映画を批判して文化人ぶってやろうと思って見たんだけど全然面白かったです。すいません。VFXについては建物の均等な傷やゆっくりめの物体落下が少し感覚に反する感じもあったけど低予算であれを作れるならすごい。

敷島絶対被爆してるでしょ。吉岡さんめっちゃいい。記者逃げずに報道してかっこいい。ゴジラの、兵器と災害の間のような設定が独特。誰も棺桶に入れないが遊園地的な楽しさが徹底されている映画?