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その夜の侍のrage30のネタバレレビュー・内容・結末

その夜の侍(2012年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

妻をひき逃げで殺された男の話。

基本的には復讐譚ではあるのだけど、ポケットからブラジャーが出てきたり、女性警備員との取り引きなど、所々に用意されたシュールな演出・展開が面白い。
重たい話ではあるものの、人間の滑稽さを見つめる視点は通底しているので、コメディーとして見ても楽しめる作品だろう。

あとは、豪華キャストも本作の見所の1つ。
堺雅人・山田孝之・綾野剛など、主演級が集結。
中でもデリヘル嬢役で、安藤サクラが出て来たのには驚いた。
ブレイク前だからこそ出来た、安藤サクラの無駄遣いである。笑


『葛城事件』の赤堀雅秋の初監督作という事で視聴したのだが、本作と『葛城事件』の共通するテーマとして、“ディスコミュニケーション”が挙げられる。

主人公の中村は妻の電話を無視した事を後悔し続け、デリヘル嬢と会話する事もままならない。
青木は話し合いではなく、見合いをさせる事で問題を解決しようとする。
そして、ディスコミュニケーションを最も象徴するのが、話が通じない男・木島だ。

面白いのは、木島に理不尽な目に遭っても尚、彼に付き従う、タクシー運転手と警備員の存在である。
木島の暴力ですら、ある種の繋がりとして受容してしまう、彼らの孤独と空虚さは、実は木島以上に恐ろしい現代の闇なのかもしれない。

そんなディスコミュニケーションな時代に、本作(『葛城事件』も同様に)は「他愛もない話」に一つの希望、救いを託している。
もしも、あの時、中村が妻の電話に出ていたら…、青木が中村と話し合っていたら…、小林が木島と向き合っていたら…、それぞれ違った人生を送れた可能性もあったのではないだろうか。

「他愛もない話」とは、つまりコミュニケーションの中身ではなく、コミュニケーションという行動自体に意味があるという事だ。
兎角、無駄を省き、面倒を避ける現代において、「他愛もない話」は無駄だし、面倒に思える事もあるだろう。
そんな時こそ、本作を思い出し、むしろ積極的に他愛もない話をしていきたい。
ラストの中村と川村の会話の様に、私の…あなたの他愛もない話が、誰かにとっての救いになるかもしれないのだから。
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