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その夜の侍のgogotakechangのレビュー・感想・評価

その夜の侍(2012年製作の映画)
4.8
映像で物語を紡いでいくこの作品では、数少ない科白の一つ一つが際立っている。

ずっと付け狙っていた仇(山田孝之)と対峙したというのに自分では決着が着けられず、相手に結論を委ねようと、山田に自分を刺すように仕向ける堺雅人。

「ズルイなぁオレは」

自分の腹部に刃を突き立てる山田のその手をシッカリと掴み、山田が刺すのに加勢しようと力を込める。
何がなんだか訳も分からず山田が刺すのを躊躇していると、
「俺を殺してオマエは死刑になれ。日本の法律では二人殺せば確実に死刑だよ。ヒサコを殺して、オレで二人目だ!」

泥まみれでの揉み合いの後、力尽きて争うのを辞めたあと、徐ろに取り出した手帳のメモを読み上げる。コンビニ弁当と居酒屋とたまの仕事、その繰り返しの毎日を送る山田に、
「キミは、ホントに、なんとなく生きてるよ。」

そして、最愛の妻を殺した仇への復讐のためだけに生きてきた5年間が、実は自分の心に空いた穴を埋めるためのものだった事に気づき、
「この物語は、最初から、キミには関係ない話だ。」

萎れていく心と押し寄せる哀しみに耐えながら声を絞り出す。
いつまでも耳に残る。

登場人物の全てが若手実力派で埋められていて、しかもその全員のキャラが立っているという、実に稀有な作品。

素晴らしい。
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