このレビューはネタバレを含みます
ポン・ジュノ監督が米国で作った最新作。公開日初日に鑑賞。
エドワード・アシュトンの小説「ミッキー7」を実写化したSFブラックコメディ映画。
失敗続きの人生を送ってきたミッキーは、契約書をよく読まず、宇宙植民船での仕事に就く。それは命令に従って危険な任務を遂行し、命を落としては何度も、人体コピーによって再生するという過酷なものだった。未開拓の惑星にたどり着いたミッキーの人生は17回目。ある日、調査中に氷原の隙間に滑落するが、奇跡的に生還。だが、既に18人目が複製されていたことから、事態は一変する。
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本作品は『パラサイト 半地下の家族』よりも更に容赦なく、未来の格差社会を描き出している。おそらく地球温暖化による環境の荒廃をほのめかしながら、使い捨てにされる人間の存在が痛烈に批判される。社畜とブラック企業そのものだ。
そんな中、ロバート・パテインソンが魅せる飄々としたキャラクターが、暗いテーマを見事に中和。パティンソンのミッキー17、18の内面の演じ分けは巧い。気になるのが、マーク・ラファロ演じる独裁的な専制君主(トランプがモデルでなのであろうか)と、トニ・コレット演じる妻の絶叫ホラーな役柄は、キャラクター造形と扱いがあまりに短絡的ではないか。どちらかと言えば、本作で初めて見た強い女性を演じたナオミ・アッキーが好印象。
物語は終盤にかけて、惑星の先住生物との対峙やキャラクターの人種構成など、現代アメリカを強烈に風刺する要素散りばめられ、(ボタン一つで人の命を奪う)核の威力や戦争批判を想起する描写もある。そして、民主主義や法治、融和への希望を仄めかし、図らずも心を温める結末となっている。
監督の最新作の情報が海外メディアを通じて発表されたのが約1〜2年前。それが何とハリウッドSFで、キャストも含めある程度の期待値を以っての鑑賞であったが、先住生物のクリーチャーのヴィジュアルの気持ち悪さに、見始めには不安を覚え、主人公に寄り添う愛嬌あるキャラもあってか、ジブリの『風の谷のナウシカ』をも彷彿とさせる終盤の攻防シーンは何とか持ち堪えたが、CGを駆使した映像は感動が出来なかった。
本作品は、ポン・ジュノ監督らしい社会的な構造を映し出しつつ、(画面の陰湿さはやはり韓国的で、監督のプライドの現れとは考え過ぎか)殆どのシーンの画が暗く観辛いのが難点だが、終盤の明るいシーンとのコントラストをつけるためだったのだろうか。
本作品は監督のキャリアでは新たな試しみと言えるだろうが、色々なテーマや要素を盛り込んだ割には(盛り込み過ぎが駄目なのか)つまらなくはないが、面白くなりそうで、面白くなかった。SF映画の難しさを目の当たりにしたし、監督はハリウッドと合わないのだろう。次回作は、韓国の地下鉄を舞台にしたらホラー映画で、音楽をジョン・カンペーターが手がけるらしいとの情報が発表されている。