このレビューはネタバレを含みます
中盤くらいまでの格差や搾取の描写はよかった。結構どぎつい内容を描いていながら、あくまでもコメディーでテンポがいいため見やすい。病原菌や放射能汚染の実験体とかね。趣味の悪さとエンタメのバランスがいいのは、ポン・ジュノらしいかなと思う。
マーシャルのトランプ・マスク的な描写は少々安直ではあるが、風刺としての分かりやすさでもあるだろう。タイムリープであればSFのド定番だが、リプリントという工業的な仕組みにしたことで風刺要素が強まり、今っぽくもなっている。
ただ、重複存在が現れてからの展開は中途半端に思えた。宣伝的にはリベンジものに見えるが、状況がむしろ悪化しただけであり、そういう要素はかなり希薄に思えた。
とは言え、個人的にそういった爽快感ある展開を求めてなかったのでそれはいいのだが、18が現れたことの意義が展開にあまり活かされていない。
命のあり方みたいな哲学や思想方面に深めることもできただろう。実際、「連続性が失われるから今までの死とは違う」みたいなやりとりもあったし。しかし、そこはあまり深められず、二人の性格の違いによる衝突がほとんどだったと思う。偶数奇数の分担を決めたりもしたのにほとんど描写がなく、二人いる状況が女の取り合いみたいなしょうもないことに費やされていた。
あくまでも底辺であることは変わらず、重複が存在することでそのありようが変わっていく…みたいな展開を期待したのだが。
クリーパーの大群に囲まれるという派手な展開も、作風から逸脱しているように思えた。王蟲のオマージュにしか見えないが、意図がよく分からないし。
結局、18の存在はその状況を打破することにしか役立っていないように思える。そのために誂えた装置のように見えるから、浮いて感じるのだろう。
それに、18はむしろ17を犠牲にしてでも生き残ろうとする性格だったはず。それがああいう自己犠牲的な行動に出るのは、考え方が変わる描写が少なく説得力に欠ける。
演技に不満はなく、複数の性格を演じ、悲痛な目に遭いながらコミカルに見せていたロバート・パティンソンはよかった。マーク・ラファロの誇張された無能な権力者といった演技も、見やすさに繋がっている。何より、トニ・コレットの単なる嫌味な権力者というだけに収まらない薄気味悪さが秀逸だった。鼻につく金持ち感と、夫を操る悪女感、ほとんどホラーとも言える不気味さが見事。
題材の面白さは確実にあり、きつい風刺をしながら見やすくまとめる手腕も感じられた。それだけに、話をどう収束させるのかが中途半端に思えたのは残念だった。