no

君たちはどう生きるかのnoのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

題材小説未読。
これまでの宮崎駿を懐古しながら現在の宮崎駿を見つめる2時間。『風立ちぬ』よりもさらに一歩踏み込んで宮崎駿のパーソナルな部分を覗き見るような映画だった。

過去作品の世界観つまみ食いっぽくなってるところや、ブラックジョークめいた暗喩、あと悩める少年眞人がこれまでの宮崎ジブリ主人公っぽくないのが目新しい感じ。
ジブリ鑑賞が久しぶりだったのもあり、序盤から作画のリッチさにクラクラした。火事の雑踏を駆け抜ける演出や、給仕人のわちゃわちゃ感、アオサギの動き!
キャラクターは、心の内に暗いものを抱える主人公をはじめ、いけ好かない相棒とか、敏腕強女とか、自信家だがちょっと空回りしてる系の父親なんかが出てきて結構好きだ。
個人的にハヤオの母性信仰は悪趣味であまり好きになれないと思うほうだが、今作の形振り構わぬマザコン4倍プッシュを見せられたらちょっともうさすがに一周回って感心した。

ハヤオの映画で戦争というシチュエーションが出てくるときは大抵そこに批判的なメッセージがあるものだが、今回はそういう政治性をあまり感じさせない。表題の問いをあくまで「社会」でなく「個人」に語りかける。
正直これが『風立ちぬ』や『ナウシカ』や『もののけ姫』のハヤオを期待した身としては、もう、肩透かしすぎる。え~〜。戦後のいま、私たちが見つめるスクリーンの中で、父親の軍需産業で上等な暮らしをしている都会育ちの坊ちゃんの成長譚に、戦争そのものが大して関わってこず、ですか…そうですか…
そこに着地しなかったのはたぶん、この映画がもっとずっとパーソナルな視点で作られている(キャラクターが高畑勲や鈴木敏夫やハヤオ自身の投影のようであったり、崩落する塔がスタジオジブリの暗喩のように描かれている)ことが関係している気がする。この冒険ファンタジーに戦時下という時代背景を選んだのは、「決して忘れてはならない教訓」だとか「人間の醜さの象徴」として《戦争を持ち込んだ》んじゃなくて、ハヤオのルーツとして《戦争がただ、事実としてそこにあった》からなのかなと思った。
また、『君生き』がそれなりに過去作を観た人間に向けて作られていて、「まあ宮崎作品を観ていればハヤオが戦争反対なのは自明のことであるから…」と鑑賞者が汲んでくれることを期待されているようにも感じる。

全体の第一印象としては少し、ファンタジーパートまでの中弛み、隠れたり逃走シーンの緊迫感の無さ、要素として散りばめられた世界の奥行きの物足りなさ、なんかが気になって、個人的には今のところ上手くできているとも面白いとも言いがたい。
でもそれは自分が子どもの頃から「冒険活劇とファンタジーの宮崎映画」を観て育ってきたので、記憶を美化している側面はあるかもだし、そもそも分かりやすく作ろうとしているわけでもなくて、咀嚼に時間が要るんだとも思う。

(映画が)うまい!(鑑賞後の消化が)はやい!で「ハヤオの人生」を観たいなら『風立ちぬ』を観とけばよいと思う。
でも私はたぶん、キリコさんや眞人やアオサギが居るという点において、『風立ちぬ』よりも『君生き』のほうが好きかもしれない。

一切情報入れずに観て、自分で少し考えて、感想や考察を読んで楽しむという体験ができたことは良かった。きっと取りこぼしている箇所がたくさんあるのでまた観る。
no

no