真田ピロシキ

キングダム 運命の炎の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

キングダム 運命の炎(2023年製作の映画)
4.0
ネタバレというか伏せられてた要素について語るので注意。

実写化で忠実な再現を試みることは必ずしも良いこととは思っていないのだが、本作の場合は高いレベルの理解と意欲が噛み合っていて原作の興奮がそのまま蘇る。その最たる例は大沢たかお演じる王騎将軍。1と2でもそれまでの大沢たかおイメージを打ち破る怪演で印象的であったが、本格的に動く本作では更に体を鍛えていて顔面と腕の太さに圧倒されて王騎将軍らしさにより近付いている。その上で元々は人間ドラマ作品がメインの大沢たかおが演じるのだから、戦争を楽しむ武人と悪戯っけのある奇人、信や政、蒙武のような次世代を見守る歴戦の男など王騎の持つ多面性が見事に表現されていて、その懐の深さはまさしく天下の大将軍の華を持ち画面を掌握する。軍に発破をかけるシーンなど見てるこっちも昂る。

主人公である信と政もこれまで以上にハマっている。これは信が年齢的にはまだガキ設定とは言え100人将となり大きく成長した後なので演じる山崎賢人の実年齢と見合った風格が身についたのか信の言動行動に説得力がありとてもカッコいい。元々信は最下層の下僕の困難を知りながら成り上がり、虐げられる者への共感を失わず"仕方ない"なんて"現実主義"には屈しない今の日本に渦巻く嫌な冷笑主義とは正反対のキャラなので、そんな信に説得力を増せたのは重要。政もまた素晴らしい政で、これはまず吉沢亮の身分の高そうな面構えがあって、それを今回政のアイデンティティを形成した紫夏編を映画の半分に渡って描いたことで、ただイケメンなだけではない大きな痛みを知った王を描くことに成功している。何も感じなかった心の死んだ男が末端の人たちの助けを得て受けた恩を別の人たちに返す王を志す。これも腐った今の日本の為政者にクリティカルに突き刺さる人物像。『バーフバリ』のクソ驕った息子の方に「王を讃えよ!」などと言われても「ナメんな世襲クソ野郎」としか思わないが、政にはー私は誰であれ人を、とりわけ王族を讃えたくはないがー人間的魅力は大きく感じられる。娯楽映画であるが、その内容は立派に語れることが多い。

長尺でも描ききれない分量なのでアレンジは多く、これも上手くできてると感じた。最大の特徴は政が語る紫夏の話を信も物陰で聞いている点。これで政が下層を知っている人間だと信にそれまで以上に印象付けることになっていて、信と政の絆がより深まる。映画で出番のない向ちゃんは代わりに私が号泣する。飛信隊は名ありメンバーがかなりカットされてて、新規加入で名が明かされてるのは副長の淵さんと怪力の竜川だけ。物足りなさはもちろんあるものの、るろうに剣心の京都編で十本刀の半分がいるだけのモブだったことを思うと、この削る決断をできたことは大正解。魅力的なキャラが半端とすら言えない扱いでいるところを見たいかい?

アクションシーンでは今回も果敢に動く。竜川のホームラン無双!大谷翔平も目じゃない。特に良かったのは信と羌カイのコンビネーションでダンサブル。信の手を取った羌カイが周囲をグルングルン周りながら斬り伏せる。冷静に考えるとおかしなアクションだが漫画原作であるし、その高い漫画世界へ没頭させる再現度でそんな細かいことは気にならない。「殿の飛矢が届いたぞー」と信がフウキを討ち取るシーンなどは思わず自分も感極まり飛信隊気分で歓声を上げそうだった。初めて応援上映というものに行きたく思ったり。こういう映画は普通の上映でももっとノリに乗って楽しむ鑑賞文化になったほうがいいと思うんですけどね。映画マナー憲兵に支配された堅苦しい空間にしてないで。また本シリーズは戦争を扱ってるのにほとんど血が出ないヌルさが不満点であったが、本作はそう多くはないものの紫夏が身を挺して政を庇うシーンなどはかなり壮絶に描かれていてやるべきところはちゃんとやってる印象があるので、前作ほど不満には思わない。あまり血生臭くすると年齢制限もかけなくてはいけなくてその辺で難しいところもあるのだろう。できることはやったと思う。

ここからがネタバレ。原作を知ってる人ならここで武神ホウケンとキングダム最大最強の宿敵李牧が登場するのだが、前作での予告時点から誰が演じるのかは伏せられていた。なのでそれも大変楽しみにしていてまずホウケンは吉川晃司。なるほど強者オーラを感じさせる。注目の李牧は…小栗旬!?やべー何がやべーって?去年『鎌倉殿の13人』を見ていた人なら謀略と策略で鎌倉を牛耳っていった北条義時の恐ろしさを散々思い知らされてるんで、それが知略の天才李牧を演じる説得力の高さ。そりゃ武力じゃ勝てんわと思うしかない。なお、フウキは北条の兄上だった片岡愛之助。趙荘は三浦義村の山本耕史と坂東武者が揃ってて実質趙は鎌倉。前作でも羌象を山本千尋が演じてたので本シリーズは鎌倉殿勢が桓騎もとい歓喜の映画。これでクリフハンガーとはなんと残酷な。次が楽しみすぎる。