耶馬英彦

インフィニティ・プールの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
4.0
 終始、重低音の音楽が流れ続け、不穏な空気を醸し出す。独特なリゾートアイランドのホテルが舞台で、ミア・ゴスが出演するとなると、怪しさ満点である。一筋縄では収まらない物語になるだろうと期待するが、何故か不安もある。ミア・ゴス効果だろうか。
 ブランドン・クローネンバーグ監督は、前作「ポゼッサー」と同様に、本作でも独特な状況を生み出してみせた。地獄の沙汰も金次第なのは世界中どこでも同じだが、本作品は度が過ぎて、もはや異常だ。
 カネがすべてを支配するとなると、金持ちたちの悪ふざけは際限がなくなる。タイトルの通りだ。巻き込まれた主人公ジェームズ・フォスターは、不条理な状況に戸惑うが、思考停止の金持ちたちは、真実を掘り下げることを放棄して、現状を楽しみつくそうとする。その姿勢を見ていると、彼らが金持ちになれた理由が分かる。他人の人格だけでなく、自分の人格さえも軽視して、ひたすら欲望を叶えようとするのだ。アイデンティティの危機さえ、少しも気にしない。

 しかしフォスターは普通のメンタルである。相次ぐ人格喪失に、世界が存在する意義や、そこで生きる意味を失っていく。冴えない男だが、そのせいでなおさら感情移入する。状況に流されることしかできないフォスターを、ミア・ゴス演じるガビが、いいように手玉に取る。平凡な女性のような登場から、徐々に本性を表していくガビが、とても恐ろしい。無反省な人間が、自省的な人間を支配するのは、世の習いだ。クローネンバーグ監督の世界観が上手に表現された佳作だと思う。
耶馬英彦

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