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ザ・キラーのrage30のネタバレレビュー・内容・結末

ザ・キラー(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

暗殺を失敗してしまう殺し屋の話。

映画の冒頭、ターゲットを監視しながら、自らの思想・哲学を語る主人公。
フィンチャーらしいスタイリッシュな映像も相まって、主人公のニヒルでハードボイルドなキャラクターにすっかりヤラれてしまった。
「これは、とんでもなくカッコ良い映画が始まるのでは!?」と期待値MAXになったところで、まさかの暗殺失敗してしまうのである…マジか。

その後も主人公が細かい失敗を繰り返していくので、戸惑いながら見てしまった。
他の人の感想を読むと、コメディーとして見ている人が多い事に驚かされたのだが、確かにコメディーとしても見て取れる。
主人公のモノローグは中二病的なナルシズムにも見えるし、それがフリとなって、ボケ(失敗)がより際立ってしまうのだろう。

個人的には、主人公がきっちりと仕事をこなす場面もあるので、コメディーと呼ぶほど振り切って作られてはいないと思うし、主人公を超人として描かない…普通の人間である事の証として失敗が描かれているとも考えられる。

そう、本作の主人公はゴルゴ13でもなければ、ジョン・ウィックでもない。
あくまで普通の人間が、現代社会を舞台に殺し屋をやっている事に面白さがある。
ヨガや音楽で心身の調整をしたり、過剰な程に痕跡を消す事に腐心したり、貸し倉庫・レンタカー・宅配ボックス(Amazon)といったインフラを利用したりと、今までにない殺し屋像が新鮮だった。

そして、本作をお仕事映画として見た時に、主人公=フィンチャーであり、殺し屋と映画監督の相似性が見えるのも興味深い。
どれだけ慎重に準備を重ねても、失敗は起こり得るものだし、たった一つの失敗がキャリアを脅かす事もある。
フィンチャーの個人史と重ねれば、上層部の裏切りは『エイリアン3』の制作過程を想起させるし、資産家の横暴は『マインドハンター』をキャンセルしたNetflixを想起させる事だろう。

そう考えると、ラストで資産家を殺さず、「舐めるなよ!」と脅すのは、フィンチャーなりのNetflixへの所信表明だったのかもしれない。
殺し屋だろうが、映画監督だろうが、失敗もすれば、理不尽な目にも遭う。
しかし、そんな事で挫けずに、立ち向かい続ける事こそが大事であり、それを乗り越えられた少数の人間だけが一流と呼ばれるのである。
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