映像化不可能と言われた伝説の漫画、豊田徹也による「アンダーカレント」の実写化。カルト的人気というその漫画が単行本になったのは、2005年。40年も前の漫画だが、2020年にフランスの放送局が選ぶ「2000年以降絶対読むべき漫画100選」で3位に入ったというから大したものだ。と言っても私自身は漫画には全然詳しくないので、この作品に出会って初めて知ったことばかり。
海外でも人気のこの作品を充実に実写化したのは、「愛はなんだ」「窓辺にて」「ちひろさん」などで、恋愛劇の新しい旗手と言われている今泉力哉監督。
夫が失踪した一人の女性、どこにでもあるようなことでもなく、多くの人が経験することでは無いのに、人に寄り添う優しさ、静かさが心地良く素敵な作品だった。
家業の銭湯を継いで夫と暮らしていた関口かなえ(真木ようこ)。しかしある日突然夫(永山瑛太)が失踪する。そこにやってきた堀という謎の男(井浦新)に銭湯を手伝ってもらいながら、かなえは何とか穏やかな日常を取り戻しつつあった。友人から紹介された怪しげな探偵(リリー・フランキー)に頼んで夫を探してもらうのだが、あることをきっかけに、かなえ、悟、堀の3人が閉ざしていた心の深層が徐々に浮かび上がっていく。
「人をわかるって、どういうことですか?」
人の心の片隅に潜んでいる訳のわからない感情に触れるような描写に終始惹き付けられる。自分のことですら分からない繊細な部分、辛い事を記憶から消し去ってしまうほど傷つきそれでも尚苦しんでいる。表面上ではわからない3人の奥底に流れる心の動きを追いながら物語は進む。
サングラスに無精髭、見るからにチンピラ風の探偵山崎。「アナログ」に続き、この作品でもリリー・フランキーの存在感が光る。タバコ屋のおじさん、田島を演じる康すおんさんという役者さんは知らなかったのだが、凄く良い味を出していて印象に残った。
漫画に疎い私としては、ちょっと重たい題材の漫画の実写化ってどんなのだろう?と半信半疑だったが、フィルマの皆さんのレビューが高評価だったので背中を押されて鑑賞。予想を超えて心に刺さった作品。自分の心の奥底にそっと手を当ててみたくなるような気持ちになった。
ラストは?堀口が去るわけではない様子、、どうなるの?忠実に原作に沿っているという本作、全11巻という漫画「アンダーカレント」続きがわかるのなら読んでみたい。