回想シーンでご飯3杯いける

アンダーカレントの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

アンダーカレント(2023年製作の映画)
3.0
タイトルの「アンダーカレント」とは、風や水の底流という意味。そこから転じて、人の心の奥底にある感情を指す言葉でもあるそうだ。実家の銭湯を夫(永山瑛太)と共に継いだかなえ(真木よう子)だったが、夫が突然失踪し途方に暮れる。そこに謎の男(井浦新)が銭湯の仕事を手伝いたいと現れる。

気心知れた男女でも互いに見えない部分があり、一方で初対面の相手でも通じ合えたり、さほど情報が無いからこそさらけ出せる感情もある。そんな深いけれども不確定な感情の繋がりがテーマと言えるだろう。そういう意味で、リリー・フランキー演じる探偵の自己紹介のシーン「ヤマサキとヤマザキ」の下りが、今作を的確に表現しているのかも。

監督は今泉力哉で、脚本は「愛がなんだ」でも名を連ねていた澤井香織との共作になっている。漫画が原作という事もあるのかもしれないが、それ以上に今回の今泉監督は、俳優のカラーを前面に打ち出すディレクションで全体的に小奇麗にまとめた印象。いつもの毒の利いたユーモアはほぼ見当たらない。

先ほど俳優の「演技力」ではなく「カラー」と書いたのは、そこが本作で最も引っかかる部分に思えたからだ。真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、、、と、出演者が皆、他の作品でも披露していたような人物描写をこなしている印象が強く、果たしてそれを「演技力」と呼んで良いのか、少し疑問に思える。

役者のアップを長めに描写するシーンが多く、彼らを一定のカラーを持つタレントとして見る人にとっては至福の時間を味わえそうだが、僕には少し冗長に思えた。