回想シーンでご飯3杯いける

オッペンハイマーの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.3
伝記『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』を原作とする映画。政治や社会ではなく、物理学者であるオッペンハイマーの視点で戦争を描くというのは、いかにもクリストファー・ノーランらしい。

兵士も被害者もほぼ登場しない。ここで描かれるのは、戦争を終わらせるために原爆投下に向かう、軍人、政治家、科学者の姿。それだけで3時間の長尺というわけではなく、音楽や効果音とストーリーのシンクロにより、実に巧妙な展開が構築されている。

一方で、やはり強く確信してしまったのは、ノーランと実話映画の相性は決して良くないという事。今回も「ダンケルク」以降の例にならい、弟(ジョナサン・ノーラン)との共同ではなく彼が1人で脚本を書いていて、(特に前半は)理系の会話が延々と続く。

史実に沿って、実在の人物が口にしたであろう言葉を写実的に並べる。これでは創作物である映画として、どうにも面白みに欠けてしまうのだ。被爆地の現実が描かれていない事が批判されているようだけど、いや、この映画には他の戦地の被害も、アメリカ兵の被害も描かれていない。被害者に対する配慮云々ではなく、そもそもノーランは本作で戦争の様々な面を描く発想さえ無かったのではないか?

まだアメリカ人であれば、レズリー・グローヴスやルイス・ストローズの名前を聞いただけで大枠の立場を把握出来たりするのだろうし、だから本作はアメリカで評価が高いのではないか。しかし、日本人の僕には彼らが政治家なのか、軍人なのか、学者なのかさえ知らないから、淡々と会話を聞くだけでは、その本意を伺い知る事が出来ないのだ。

「TENET」のレビューでも書いたけど、ノーラン単独脚本作品の難解さは、技巧ではなく、彼の脚本家としての力量不足に因る部分が大きいと思っているので、複数回観た所でスッキリは出来ないだろうし、どちらかというと作業的な鑑賞になってしまうと思う。それは僕が映画に求める物ではない。